研究課題/領域番号 |
16K16930
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大谷 哲 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (50637246)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 殉教 / 告白者 / 歴史叙述 / トゥールのグレゴリウス / エウセビオス |
研究実績の概要 |
本研究の目的はローマ帝政初期のキリスト教会において形成された「殉教」の基準に存在した「法廷におけるキリスト教信仰の保持による有罪判決」という客観的規定が、古代末期から初期中世にかけて変質した過程を明らかにすることである。 そのため本年は 391 年アレクサンドリアの修道士アンモニオスの殉教者称号付与論争の研究を実施し、ローマ帝国官憲によって拷問死させられたこの修道士が殉教者称号を獲得できなかった理由を解明するため、当時のキリスト教社会で大きな問題となっていた、キリスト論論争と教会間の対立とは異なる、古代的な殉教基準と中世的な殉教概念の揺らぎが現れたケースとして検証した。本研究においてはコンスタンティノポリスのソクラテス著『教会史』とニキウのヨハネス著『年代記』という、当時対立していた教会陣営(コンスタンティノポリス教会、アレクサンドリア教会)の両方の立場を示す史料を検証し、この修道士が殉教者称号を獲得できなかった理由は神学論争ではなく、古代的殉教基準が当時のキリスト教共同体に残存していたことを確認した。本研究は現在、論文として公表するため準備中である。 また、本研究の目標である、古代末期から初期中世にかけて殉教の基準が変質した過程を明らかにするためには、初期中世社会における古代の殉教の理解の実像を解明しなければならない。そこで、科研費申請時には391年アレクサンドリア修道士殉教者称号付与論争についての経過報告を行う予定であった、国際学会Asia-Pacific Early Christian Studies Society Conferenceにて、6世紀の司教トゥールのグレゴリウスが残した教会史史料、殉教者集成史料を通じて中世期におけるローマ期史料の受容に関する研究を報告した。本研究は現在、海外査読誌にて掲載されるべく、査読を受けている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では391年アレクサンドリアの修道士殉教者称号論争についての論文を本年度内に公表したいと考えていたので、計画としては若干の遅れがある。しかし、国内学術誌に論文を一本公表し、当初予定していた計画から新たに派生した論点である、初期中世における古代史料の受容については、出席を予定していた国際学会のテーマにより沿っていたため、こちらの遂行により比重を置き、その結果評価を受け、海外学術誌へ論文投稿がかなったので、一定の成果を得ることはできた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従い、アレクサンドリア市での殉教者称号付与論争について、さらに415年に発生した市内暴動事件と関連して研究を進める。また、9月にオーストラリア・メルボルン市で開催される国際学会11th Annual Conference of Asia-Pacific Early Christian Studies Society:Responses to Conflict in Early Christianityにて、特に古代末期の歴史叙述と初期中世に向けての継承に焦点を置き、研究の経過報告を行い、最終的に国際学会誌への投稿を予定している。
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