研究課題/領域番号 |
16K16930
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大谷 哲 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (50637246)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 殉教 / ローマ帝国 / 古代末期 / エウセビオス / トゥールのグレゴリウス / 歴史叙述 |
研究実績の概要 |
古代から中世へのキリスト教殉教概念変遷を政治史的に解明する本研究は今年度以下のように進められた。 2世紀に現在のフランス・リヨンにあたるルグドゥヌムで発生したキリスト教徒迫害事件は4世紀のエウセビオスによるギリシア語『教会史』ならびに『古の殉教集成』に記録された。しかし古代から中世への殉教概念変遷を政治史的に解明する本研究は今年度以下のように進められた。しかし6世紀トゥールのグレゴリウス『歴史十巻』が執筆された時代には、5世紀のルフィヌスによるラテン語訳版『教会史』の改竄的な記述と、散逸した『古の殉教集成』の断片的な情報が不完全な形で2世紀の事件が伝わり、実際には発生していない殉教の記述が混乱した内容で『歴史十巻』に書き加えられるようになった。こうした伝承過程を明らかにし、国際学術誌に発表した。 また、殉教者に関する歴史記述が生成される状況を考察するため、4世紀のパレスチナで作成されたエウセビオス『教会史』における、同時期エジプトでの目撃情報の処理についての研究をアメリカでの国際学会において報告した。 殉教者概念の変遷と殉教者称揚・崇敬とが古代末期の政治状況と密接に関連し、歴史叙述にもその影響が表れる点を、ローマ皇帝コンスタンティヌスにかかわるエウセビオスの『教会史』・『コンスタンティヌス帝の生涯』を素材に指摘し、オーストラリアでの国際学会において報告した。これらは現在、国際学会誌での論文査読、あるいは査読後の修正作業中である。 古典古代から古代末期にかけての殉教者関連史料から浮かび上がる当時の人々の宗教観念を、奥山広規・志内一興の協力を得て、一般公開講演会でのシンポジウム発表し、本研究の成果の一部から社会還元を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は古代末期地中海世界と初期キリスト教史という二つの分野での国際学会で研究報告を行うことができ、アメリカ、オーストラリアの研究成果の国際発信が順調に進んだ。また、仙台市の東北学院大学における市民公開講座に招待され、これまでの研究成果を一般社会に還元する機会を得られたことは大きい。論文成果は国際学術誌での掲載を着実に実現できている。 研究計画において予定していた古代アレクサンドリア市における殉教者照合付与にかかわる研究は、論文として国際論文集に掲載されるべく作業を進めている。査読中・査読を受けての修正作業中の研究論文については、着実に成果発表できる見通しが立っている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画において予定されているローマ帝国西方での殉教概念の変遷史解明を遂行する。同時に、古代末期から初期中世にかけての殉教者概念変遷史には地中海世界における東西領域での差異を検討することで、さらなる研究の発展が得られる可能性が生じたため、この点の研究も併せて検討しつつ進める。 今年度経費を一部次年度に繰り込み、国際学術誌への投稿を見据えた英語論文校閲費等に充てる。 また、アブストラクトが採択されれば、次年度9月開催のキリスト教史に関する国際学会で研究報告を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は二度国際学会への出席で海外出張をするため、英語論文校閲費を比較的安価な業者に依頼することによって使用額を抑えた。また今年度の海外出張で英文での論文執筆依頼が増えたため、研究成果のさらなる公開を期した来年度の執筆時に必要となる英語論文校閲費を次年度使用額として確保する必要があった。 それゆえ次年度使用額を英語論文校閲費の増加分に充て、国際学会誌への投稿を行う。必要に応じて、査読後の修正にも英文校閲を行い、着実な研究成果の国際発信を期す。
|