本研究の目的は、19世紀イギリス海軍における科学研究の展開を解明することである。近年、海事史研究の隆盛を背景に、イギリス近代の帝国形成と海洋支配のために援用された科学・技術の関係に大きな注目が寄せられている。本研究は、海軍が確立した科学・技術の研究体制を検討し、正確な空間・時間把握の実践という観点から、その研究内容と成果の特徴を考察する。
平成28年度には、当初の計画通り、関連分野の動向調査を徹底し、先行研究を総括するような論点の整理を行った。イギリス海軍の全般的な活動は少なからぬ先行研究の中で示されてきたが、科学・技術研究推進に関する包括的な分析成果は乏しい。そのため、研究動向の詳細な検討を通して、本研究の理論的な枠組みを構築し、より実践的な問題設定を行うための準備に取り組んだ。政治経済学・経済史学会・武器移転史フォーラム(2016年4月23日)で、この動向分析の成果の一端を発表し、問題設定の具体化に向けた有益な議論を交わすことができた。
研究動向の整理に基づき、19世紀の海軍における科学研究の制度的基盤を概括的に捉えた成果を『化学史研究』(43巻4号)掲載の論文で発表した。とくに科学技術研究への予算配分と研究部門の構造、およびそれらが専門職業化に与えた影響を検討している。また、同論文では空間・時間計測の重要拠点であるグリニッジ天文台を事例に、天文学者たちと海軍との関係が、科学研究の方向性をどの程度規定していたかを解明した。
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