研究課題
平成29年度には、研究計画において設定した二つ目の論点である、イギリス海軍による空間と時間の支配」のための科学研究活動を具体的に検討した。とくに科学部門の中核的拠点となった水路局の測量・海図作成事業とグリニッジ天文台における航海技術の開発の特徴を究明するために、英国水路局とケンブリッジ大学図書館で史料調査を実施した。英国水路局では水路局長の活動日誌、海図・航海記録、水路測量士たちの書簡に関する資料収集を実施し、ケンブリッジ大学図書館ではグリニッジ天文台アーカイブズの関連史料を集中的に分析した。11月にはトロントで開催されたアメリカ科学史学会年次大会において、その成果の一部を報告した。この報告の中で、グリニッジ天文台長は、インド、南アフリカ、オーストラリア、カナダなどに設置された植民地天文台と連携を図り、天文研究の推進とともに正確な時間計測と現地の測量事業という時間と空間の精密計測とその利用を帝国規模で促していたという知見を提起した。イギリス帝国の空間的枠組みのなかで、このようなグリニッジ天文台長の活動を考察する作業は世界的に見てもようやく端緒についたばかりであり、今後のさらなる検討が期待されている。上記の口頭発表に加えて、当初計画通り、航海日誌、航海手引、海事書、指令書、水路通報、艦艇の設計図などの実践的なマニュアルや士官養成に関わる内部文書の分析に少しずつ着手することができた。これにより、海軍を拠点とする研究成果がどのように利用されたかを解明することを計画している。最終的には、海軍における科学技術の開発・実践・普及のシステムの全容を解明したい。
2: おおむね順調に進展している
今年度は当初計画通りの検討課題の考察とその公表を行うことができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
実施期間の半分を終え、全体としては当初計画通り進めることができているが、一次史料の分析をさらに進展させることで、本研究を深化させることを目標としたい。
当初購入予定であった図書の出版が遅れたため、次年度に購入する計画へと変更した。
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Makoto Ono ed., Institutionalization of Science and the Public Sphere in Modern Britain
巻: 0 ページ: 22-38
史学雑誌
巻: 126 ページ: 326-329