研究課題/領域番号 |
16K16932
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岡本 託 神戸大学, 人文学研究科, 人文学研究科研究員 (30611868)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 近代フランス / ローヌ・アルプ地域 / 官僚制度 / 幹部候補行政官 / 専門職化 / 近代化 / 中央集権 |
研究実績の概要 |
本研究課題に関して平成28年度に実施した研究は、主に以下の2つの成果をもたらした。1つ目は、本研究において重要な要素である地方上級行政官(県事務局長、郡長、県参事会員)の属性(出身地、生年月日、出自、学歴)に関する個人データの収集をおこなったことである。具体的には、フランス国立文書館所蔵の分類番号F/1bI/155~180, F/1bI/297~400, F/1bI/436~530「知事、郡長、県事務局長、県参事会員の個人情報:1800~1912年」、そして、ローヌ県文書館所蔵の分類番号2M5~2M8「知事、郡長、県事務局長の職務、昇進、俸給:1800~1940年」、2M9~2M11「県参事会員の個人情報:1800~1933年」において19世紀ローヌ県の県事務局長53名、郡長36名、県参事会員62名に関する史料収集をおこなうことができた。この調査により、19世紀を通じた地方上級行政官の属性の変化を明らかにし、それにより彼が経験した専門職化、近代化の実態を把握することができた。 2つ目は、上記の海外調査で収集した史料の分析を基に、第二帝政期から県参事会員の登用論理が候補者の経歴を重視していたことを明らかにし、県参事会員の専門職化がこの頃から既に開始されていたことを明らかにした。ここで得られた研究成果は、「フランス第二帝政期における地方幹部候補行政官の登用論理―ローヌ県参事会員のNotice Individuelleを手がかりに―」として、『歴史学研究』2017年8月号(2017年7月20日刊行)に掲載されることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はおおむね順調に進展していると言える。その理由として、まず、フランス国立文書館とローヌ県立文書館において、十分な史料収集をおこなえたことが挙げられる。そこでは、現地文書館の夏季休業期間を避けて、海外調査の時期を9月上旬に設定できたこと、そして、収集すべき史料を事前調査で特定できたことにより、十分な史料収集が可能となった。次に、史料収集において不可欠なPC関連の研究ツールが予定通り納品されたことが挙げられる。最後に、以上の海外調査で収集した史料の分析に際して、分析テーマを地方幹部候補行政官の登用に特定したことにより、効率的な史料分析が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の前半は、平成28年度の海外調査で得られたローヌ県の地方上級行政官に関する史料を引き続き分析し、地方上級行政官の属性、資質・登用論理の変化を解明する期間に充てる。具体的には、彼らの出身地、登用時の年齢、出自、学歴、そして地方上級行政官の登用の際に用いられた請願書の内容を分析することで、地方上級行政官の近代的変容の有無を明らかにし、そこで得られた研究成果を論文として逐次公開する。 そして、8月末から9月中旬までの間に、3週間の海外史料調査を実施する。その際、国立文書館所蔵の分類番号F/1bI/155~180, F/1bI/297~400, F/1bI/436~530「知事、郡長、県事務局長、県参事会員の個人情報:1800~1912 年」と、アン県、ドローム県、イゼール県の各文書館の分類番号2M「県行政に関わる人物」において、これらの県の地方上級行政官に関する史料収集をおこなう。帰国後は、ローヌ県の史料分析と同様の手法を用いて、分析をおこなっていく。 平成30 年度の前半は、前年度後半でおこなったアン県、ドローム県、イゼール県の地方上級行政官に関する史料の分析をおこない、これらの県における地方上級行政官の属性、資質・登用論理の変化を解明する期間に充てる。その際、分析結果を逐次論文にしていく。そして、平成30年度の後半は、ローヌ県、アン県、ドローム県、イゼール県で得られた研究成果を統合し、地方上級行政官の近代的変容の有無を明らかにする。最後に、そこで得られた成果と、これまでの研究で得られた中央上級行政官に関する研究成果とを比較することで、双方の行政的差異を明らかにし、近代化過程のフランスが志向した中央集権の内実を立体化していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、平成28年度の海外史料調査を6週間予定していたが、担当する後期授業の開始時期との関係で、3週間の調査期間に変更することとなり、残り3週間分の滞在費が次年度使用額となった。また、史料調査から帰国後、「使用計画」で詳述するように、分析対象地域にアン県、ドローム県、イゼール県を加えることで、ローヌ=アルプ地域全体に関するより体系的な研究成果が上げられるという考えに至ったため、次年度使用額として平成29年度の海外史料調査に使用することに決めた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の研究計画では、地方上級行政官の担い手が専門職化された近代的行政官へと変化したのか否かをローヌ県のみを事例に明らかにすることであった。しかし、現地文書館での史料調査の結果、それらの史料の充実さから、その周辺県であるアン県、ドローム県、イゼール県も分析対象とすることで、ローヌ=アルプ地域全体に関するより体系的な研究成果が上げられると考えた。このことにより、平成30年度に実施予定であった海外史料調査を、平成29年度中に実施する必要が生じた。よって、平成28年度の次年度使用額と平成29年度助成金を平成29年夏に実施する海外史料調査に使用する。
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