申請者は、最終年度に実施した研究の成果として、「コンスタンティノープルのヴェネツィア人ーー13世紀のバイロと居留地ーー」『ヨーロッパ文化史研究』第20号、2019年を出版した。この論文は、コンスタンティノープルにおけるヴェネツィア人居留区の成立の過程を、バイロ職が成立する13世紀末に焦点をあてて明らかにしたものであり、特に13世紀末にヴェネツィアからバイロとしてコンスタンティノープルに派遣されたマルコ・ベンボの殺害事件を契機として、14・15世紀につながる居留地行政と外交官を兼ねる、バイロ職の制度的発展が促進されたと結論付けた。 以上の論文の趣旨は、交付申請書における「研究の目的」における、制度史的アプローチと事件史的アプローチの協働によって、コンスタンティノープルのヴェネツィア人居留地社会の成立を明らかにすることにつながる成果となった。「研究実施計画」に照らしても、順調に成果をあげることができたといえる。 本研究は、さらに14・15世紀のビザンツ帝国とヴェネツィアとの間の「外交」のあり方を考えていくことにもつながる、史料面においても分析手法としても有益な成果となったといえる。 また、本研究の一環として最終年度の8月には南イタリアとアルバニアの巡見を行った。コンスタンティノープルのみならず、アドリア海峡を挟んだ両岸もまた長くヴェネツィア共和国とビザンツ帝国が対峙した場所である。勢力のせめぎあいと外交交渉、日常レベルでの交流は、今後に展開する研究の起点となるものであった。
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