価値観を異にする国家や宗教が存在するときに、紛争や戦争といった衝突の諸形態がすぐさま想像される。十字軍を想起するならば、中近世の地中海世界史が例外ではないことは自明である。このような繰り返されうる衝突を回避するための仕組みとして、本研究では居留地と居留地経営にあたる領事職に着目した。領事自体が紛争や戦争を回避するための重要なファクターとして機能しうるものであるが、むしろ居留地の維持のためのビザンツ帝国やヴェネツィアの間のコミュニケーションのなかで、両国間の関係の決定的な捻れが防がれている。近代以降につながる居留地を介した国家間の交流の仕組みの萌芽がここに見られる。
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