研究課題/領域番号 |
16K16939
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 舞 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員(PD) (90773226)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 青銅器銘文(金文) / 字体 / レプリカ法 / 製作技術 |
研究実績の概要 |
本研究は、古代中国の殷周青銅器銘文(金文)を検討材料として、これを当時製作されたモノのひとつとして捉え、その字体・字形および製作技術の差異に基づく系統分析から、殷周時代における文字製作のあり方を再考するものである。今年度は、次の検討を行った。 (1)青銅器物へのレプリカ法導入の方法についての基礎的検討:青銅器を用いてシリコン樹脂製レプリカを作成する際の作成手順や用いるべきシリコンの種類、製作痕跡の見え方について、基礎的実験を行い、本研究でのレプリカ法およびその観察法について、本研究なりの方針を定めた(2016年8月、台湾中央研究院地球科学研究所にて実施)。本検討内容については、今年度中に国内学会で報告済であり、現在論文を執筆中、次年度に国内の学術誌に投稿する予定である。 (2)レプリカ採取とその観察:京都泉屋博古館にて、殷代を中心とした青銅爵・角8点分の銘文の実物観察・写真撮影・レプリカの作成を行った(2016年7月・9月・12月の3回に分け、京都泉屋博古館にて実施)。また、顕微鏡観察を行い、レプリカ上に残された製作痕跡に基づき、爵・角銘文の分類を行った(2016年8月・2017年1月の2回に分け、台湾中央研究院地球科学研究所にて実施)。本検討内容については、今年度中に国内学会で報告済であり、現在論文を執筆中、次年度に国内の学術誌に投稿する予定である。 (3)原型製作実験の試み:(2)で見られた製作痕跡に基づき、原型製作に関する基礎的実験を、常温個体油脂などを用いて行った(2017年3月、富山大学芸術文化学部にて実施)。本検討内容については、後述する次年度の再現実験の結果と併せて、次年度に学会報告および論文執筆を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究計画の初年度として、まずは青銅器物にレプリカ法を用いる際の方法論について検討した。レプリカ採取対象は、当初の予定どおり、京都泉屋博古館にて行った。作成したレプリカの顕微鏡観察については、研究計画からは変更があり、台湾中央研究院で行うこととなった。しかし、研究の進捗具合としては、とくに問題はない。 1年間で作成・観察できた銘文レプリカは、青銅爵・角8点のみである。数量が限られる代わりに、レプリカ作成法・観察法に関する検討を時間をかけて行うことができ、また1点ごとの観察内容も丁寧に行うことができた。 また、レプリカ観察から得られた製作痕跡に関する情報に基づき、銘文鋳造時の原型製作法についてのいくつかの手がかりをすでに得ることができ、1年目の段階で、原型の試作実験にまで至ることができた。なお、再現実験については、当初の予定から変更があり、富山大学芸術文化学部にて行うこととなった。 全体的に見て、当初の研究計画より慎重な研究手順となっており、レプリカ作成・観察ともに、数はこなしてはいないものの、銘文製作法に関する基礎情報を着実に積み上げつつある。そのため、「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、次の検討を行う。 (1)銘文製作法については、泉屋博古館でのレプリカ採取および中央研究院での顕微鏡観察を進めて行く。今年は2年目なので、殷代青銅器を中心に、20点程度は進めたい。 (2)また、今年度のレプリカ作成・観察で得た基礎情報をもとに、国内外の他の殷周青銅器所蔵機関での実見調査を進め、類例を増やし、自身の分類の妥当性を確認していく。 (3)再現実験についても、今年度の実験結果を踏まえ、再度原型製作実験、とくに蝋型製作実験を行う。 (4)字体・字形研究については、金文著録上の銘文拓本の収集作業を行い、上記の(1)~(3)の検討で得られた銘文製作法の痕跡を拓本中にも確認し、実物資料を見れないものを補う形で、拓本資料による系統分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外旅費(2016年6月・中国北京の航空券)が割引チケットで、安く抑えられたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費(シリコン代)の一部に充てる。
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