最終年度は、次のような調査・検討を行った。 (1)銘文レプリカの観察:第1~2年度に採取した銘文レプリカの観察を進めた。観察には学習院大学東洋文化研究所に設置した実体顕微鏡を用いた。その成果は、2019年度中に論文として投稿する予定である。 (2)青銅器銘文の実見調査:出光美術館(東京)・黒川古文化研究所(兵庫)・中央研究院歴史語言研究所(台湾)・中国社会科学院安陽工作隊(中国)・Museum of Far Eastern Antiquities(スウェーデン)において、殷・西周青銅器銘文の実見調査を行い、観察データを作成した。また2018年度は、Museum of Far Eastern Antiquitiesにおいて、殷代鋳型約200点の実見調査を行う機会を得ることができ、初歩的な観察記録を作成した。鋳型観察からの製作技法の復元は、今後の課題である。 (3)鋳型製作・銘文鋳造実験の実施:(1)(2)で得られた製作痕跡に基づき、銘文鋳型の製作実験、またその鋳造を富山大学芸術文化学部にて行った(2018年5、11月)。その成果の一部は、すでに鈴木・三船2018として学会報告した。 本研究では、青銅器銘文の製作技法研究に対し、新たにレプリカ法(銘文レプリカの採取と実体顕微鏡観察)を取り入れることで、青銅器上に残る鋳型製作時の痕跡を、三次元で微細観察することができた。その結果、殷後期には、器物の器種・用途ごとに先端形状の異なる施銘具を使い分けて文字を陰刻していたが、殷末期~西周期にかけては、銘文が長文化するのに伴い、いくつかの異なる施銘技法が併用されるようになった可能性の高いことが分かった。
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