研究課題/領域番号 |
16K16940
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中久保 辰夫 大阪大学, 文学研究科, 助教 (30609483)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 土器 / 古墳時代 / 土師器 / 須恵器 / 韓式系軟質土器 / 土器編年 / 比較考古学 / 窯業技術 |
研究実績の概要 |
本研究は、考古学研究上の基礎資料でありながらも、統合的な整理が不十分であった古墳時代(西暦3世紀半ば~7世紀)の土器について、時期、地域、器質を横断して、考古学的な検討を行い、その時代的な特質を解明することを目的としている。そのために、研究代表者は3つの研究の柱を立てて、それらを相互に関連付ける資料調査をもとに研究を進めている。すなわち、【テーマ1】日本列島における儀礼用土器の広域共有現象を通時期的に把握するとともに比較考古学的観点からその背景を考察し、【テーマ2】土器編年上の刷新的な画期の背景を、同時期の韓半島と比較することで外的影響といった視点から再検討し、【テーマ3】土器様式を刷新する中心地のあり方と周辺地の様相を比較することである。 本年度は、当初計画及び昨年度実績を基礎として、最新の出土土器資料の熟覧、日韓米の研究協力者との比較考古学的検討、研究テーマ3と関連する土器色調計測分析を継続的に行うとともに、研究成果を公表した。 研究実績を具体的に述べると、次の通り。研究テーマ1に関しては、土師器・小型丸底土器の集成作業を昨年度から継続して行い、本年度ではさらにa)初期須恵器窯の分布図作成と公表、b)播磨地域須恵器窯集成の分担、その成果の発表、c)日米土器研究現状と効果的な国際共同研究の可能性についての議論が主要な成果である。研究テーマ2については、2017年6月に奈良県新堂遺跡、大阪府持ノ木古墳出土土器資料の資料調査を実施。また、2017年7月に韓国ソウル市夢村土城、石村洞古墳群、河南市甘一洞古墳群発掘調査見学および出土土器熟覧、11月に咸安市于巨里土器生産遺跡の踏査および昌寧余草里遺跡出土陶質土器の熟覧により、5世紀代の日韓窯業技術の導入と変容を考察した。研究テーマ3に関しては、大阪府桜井谷2-2号窯出土須恵器杯身・杯蓋約128セットすべての色調計測が完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記した研究計画に沿って、本研究は、ほぼ計画通りに遂行できており、学際性という面では当初計画をうわまわる前進があった。 研究テーマ1については、研究代表者が研究協力者と日米の土器分析手法とその課題について比較・検討できたことにより、今後の国際研究展開に関する着想を深めることができた。加えて、研究代表者は播磨地域における須恵器窯の悉皆的な集成に参画し、その研究現状を把握できたことにより、古墳時代にとどまらずに古代から中世にいたるまでの窯業生産の変遷に関する見通しを得た。また、本研究は、昨年度、当初計画の前向きな変更として、考古地磁気方位・強度計測との連携を視野に入れることとなったが、本年度は大阪府陶邑窯跡群出土資料の分析を開始した。さらに、第13回人間文化研究情報資源共有化研究会において土器研究の現状と課題を発表したことで、情報科学分野との学際的な研究展開についても展望することができた。 研究テーマ2については、日韓の土器研究者で最新出土土器資料調査(日本1回、韓国2回)を実施し、a)5世紀における韓半島系土器の系譜や日韓の窯業技術に関して、b) 朝鮮半島における須恵器の様相について研究が進展した。成果の一部は論文や研究発表で公表している。 研究テーマ3に関しては、大阪府桜井谷2-2号窯出土須恵器杯身・杯蓋の色調計測が完了し、当初計画より早くに完了した。ただし、大阪府野中古墳出土土器計測については、継続中である。 以上に加え、古墳時代を通じて生産された土師器の直口壺に関する専門論文を執筆し、また同じく通時期的に生活の痕跡が認められる奈良県布留遺跡について、土器編年を応用して集落変遷のあり方をまとめて発表した。これと関係して、中学生向けのワークショップ開催や市民向け遺跡ウォーキングといった特色あるアウトリーチ活動も実施した。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度も当初計画に沿って研究を遂行する予定であるが、次の点で本研究の国際性、学際性を高めるための前向きな計画変更を行う。すなわち、本研究を通じて1)日本の古墳時代土器研究が蓄積してきた緻密な型式学的研究が、近年、アメリカ考古学で分析手法の改良があった光ルミネッセンス(optically stimulated luminescence; OSL)年代測定法の検証に有効であるので、日米土器共同研究の可能性を模索すること、2)考古地磁気年代測定法と型式学的手法の協業をさらに深めることである。相互に関連付けて行う当初計画の研究(3年次)については、次の通り。 研究テーマ1については、儀礼用土器の広域分布図を作成し、斉一性の実態と特質に関して比較考古学的観点から検討を深める。 研究テーマ2に関しては、6世紀代を中心に編年研究の再検討を行うとともに、土器様式刷新の背景を考究するために、韓国における資料調査を実施する。この時期における変化は韓国・百済、栄山江流域地域の土器様相変化と連動すると考えられるため、当地域における情報収集、土器資料調査を実施する。 研究テーマ3は、2017年度に先行して一部土器色調計測の成果公表をすることができたが、大阪府野中古墳の分析を遂行する。 以上に加えて、予定通り、古墳時代土器に関するwebサイトの日本語版製作を行う。
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備考 |
特色あるアウトリーチ活動 「ジュニア考古学者養成講座 土器の欠片(カケラ)は歴史のONE PIECE」(大阪中学生サマー・セミナー、大阪大学埋蔵文化財調査室・大学院文学研究科、2017年7月29日)、中久保辰夫・西村公助「布留遺跡から八尾へ―大和と河内の物部氏―」歴史ウォーク「大和の中のヤマト―バスで訪ねる文化遺産―」(天理市観光協会、2017年9月30日)
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