研究課題/領域番号 |
16K16943
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研究機関 | 東日本国際大学 |
研究代表者 |
矢澤 健 東日本国際大学, エジプト考古学研究所, 客員准教授 (10454191)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 古代エジプト / 中王国時代 / 新王国時代 / 供物 / 祭祀 / ミニチュア土器 / 墓 |
研究実績の概要 |
本研究は、墓や供物奉献活動の場で発見されたミニチュア供物容器のセットの規格性に着目し、その背景となる典礼について検討することが目的である。平成28年度では、①供物リストの集成と分析、②ミニチュア供物容器のセットの変遷、地域性の分析、③エジプト現地での整理作業、を実施した。 ①については、供物リストの既往研究の集成をベースに、その成立に至る過程について調べ、一方で既往研究の出版時には発見されていなかった新たな資料を加え、現在も継続中である。②については、中王国時代の墓出土のミニチュア土器の集成を行なった。中王国時代は南のテーベ出身の王が全土を統一することで開始され、その後北のイチタウイに都が移された後、物質文化の様々な面で大きな変化が訪れる。墓の土器も例外ではなく、都を中心に新しい様式が導入され、エジプト全土に拡散していく。しかし、ミニチュア土器が一定のまとまりを持って墓に副葬される習慣はテーベを中心とする時代からすでにあり、中王国時代の終焉まで続いていることが明らかになってきた。土器の様式は変化しつつも、ミニチュア土器の使用とその背景と推測される典礼については、連綿と受け継がれていたことが推測される。次に、後の新王国時代の定礎具から発見された土器の分析に着手したところ、中王国時代の土器と共通する器形が多数あることが分かり、新王国時代にも伝統が続いている可能性が推測された。さらに、新王国時代のミニチュア土器には供物の名前が書かれているものがあり、中王国時代と共通する器形に関しては、その器形がどの供物を象徴していたのかを知る手がかりとなる可能性がある。③では、ダハシュール北遺跡において中王国時代の新たなミニチュア土器が発見されたため、その整理作業を重点的に実施した。その成果については、他の出土品とともに今後分析を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
供物リストの集成と分析についてはやや遅れが見られるものの、ミニチュア供物容器のセットの変遷、地域性の分析については、計画以上の進展が見られた。中王国時代第12王朝初期に見られる大幅な土器様式の変化の中で、ミニチュア土器のセットを副葬するという習慣は器形を変えつつも継続していることが明らかとなり、埋葬におけるミニチュア土器副葬の重要性を理解することができた意義は大きい。 また、新王国時代のミニチュア土器には供物の名前を意味する文字が書かれていたことについては、これまでの自説を補強する材料になった。研究代表者はミニチュアの供物容器が死者の復活に必要な供物の一覧を示した供物リストに由来していると考えており、土器の1点1点はリストにある供物を象徴していると考えている。新王国時代のミニチュア土器の器形は中王国時代のものと共通性があり、新王国時代の土器の文字の研究が、中王国時代のミニチュア供物容器の意味を推測する強力な手掛かりとなると考えられる。 データの量が膨大で整理に時間がかかっているため、平成28年度内に報告を発表することができなかったが、研究の骨組みは順調に作られていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は供物リストの集成と分析と、ミニチュア供物容器のセットの変遷、地域性の分析を継続する。先に挙げた理由から、特に新王国時代のミニチュア土器について、重点的に研究を行う。新王国時代のミニチュア土器に見られる文字については、19世紀から20世紀の調査で発見されたものが多く、文字について図を交えて網羅的な報告が行われた例は少ない。これらの資料は博物館等に保管されているものもあり、それらの調査を実施し、文字の内容と器形との関連について明らかにしていく。 また、レリーフ、壁画、棺などに描かれた供物容器を集成し、そのデータベース化を行い、供物容器の器形が持つ意味をより明確にしていく。加えて、エジプト現地での整理作業を実施し、中王国時代・新王国時代のミニチュア供物容器のデータを追加する。
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