本研究は、パプアニューギニア独立国イーストケープの土器づくりの民族誌による土器の類型化に関する民族考古学的なモデルの構築を目的とし、目的の達成に向けてイーストケープの土器製作者と(1)ワリ島の製作者、(2)イブライ区の製作者、(3)ノルマンビー島の消費者らとの関係に主な焦点をあて、イーストケープの製作者を取り巻く社会的ネットワークの解明を課題としている。 平成30年度は、前年度までの調査研究の成果と、早稲田大学考古学研究室の調査チームによる調査研究の成果とを総合的に検討した。上記3点の検討課題に則した研究成果の概要は次の通りである。(1)ワリ島の製作技術をもつ女性は、オジとワリ島で生活している間にその妻(ワリ島出身)から技術を学んでおり、異系統技術の獲得には姻族との交流が重要な契機になっている。また、この女性作の模倣土器がワリ島産の土器と瓜二つといっていいほど酷似するのに対し、他の作者の土器ではその外見的特徴のみが模倣されていることから、技術を直接的に体験できる環境がなければ外面的な模倣にとどまることが指摘される。(2)イブライ区の土器づくりは基本的な製作技術は共通するものの、細部にイーストケープには見られない技法が観察される。内陸部や島嶼部との通婚が多い一方で、イーストケープとの通婚は少ないことから、地域間交流の希薄さは通婚の少なさに起因しており、通婚圏は製作技法が共有される範囲に少なからず影響を与えていると考える。(3)イーストケープの住民の多くは、出自を辿るとノルマンビー島からの移住者の系譜に連なる。つまり両者は、共通の祖先をもつ出自集団の構成員という関係にある。ここから、両地域間で土器と作物などを物々交換するキドコという小規模な地方交易は、出自集団内部のネットワークを基礎として成り立っていると考える。なお、これらの研究成果の一部は学術雑誌などで発表した。
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