研究課題
テル・ルメイラ遺跡の下層出土土器群(前期~中期青銅器時代)の技術論的検討によって、前・中期過渡期における土器群に顕著な断絶がみられず器種組成や製作技法などの土器属性の点で連続的に変化していたことが指摘できた。また前期・中期を通じて在地色の強い特徴を有しつつも、中期には北レヴァントの土器文化圏へと組み込まれていったことが示される。これは過渡期における地域間交流の変化を反映すると推定される。文献史料の研究から提起されるように、エブラを中心とする古代国家構造が変質し、ヤムハド王国など新たな政治秩序形成と同期した地域文化の再編の一環であったと考えられる。過渡期前後に北シリアと密接な交流関係にあったアナトリア地域の土器群の研究でもやはり、土器生産上の著しい画期は見られず、前3千年紀からの土器伝統が連続して変化していたことが確認された。ルメイラ遺跡の放射性炭素の年代測定は、中期初頭が従来説の前2000年頃よりも古い値(較正値で前2040年以降)を示した。これはシリア・レヴァント地域における最近の年代値データ群とも符号する結果である。過渡期の年代が従来説よりもやや遡ることで、4.2kaイベントをはじめとする気候変動、政治社会変動との連関について再評価を促すことになる。経年の農業生産が不安定な「不確定地帯」の遺跡群(ルメイラ含む)とより湿潤な北レヴァント地域の都市集落とは居住パターンの挙動が異なっていたと推測されるが、それを評価するための良好な物質文化指標と年代値データを得ることができた。以上の研究成果から、北メソポタミア地域の青銅器時代過渡期の物質文化は前後に比べ大きな断絶や転換があったわけではなく連続的な展開を示すこと、絶対年代が従来説より古く前21世紀に遡る可能性が高いことが明らかとなった。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Proceedings of the 3rd Kultepe International Meeting
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Supplement to Orient. Prince of the Orient: Ancient Near Eastern Studies in Memory of H.I.H. Prince Takahito Mikasa.