研究課題/領域番号 |
16K16950
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研究機関 | 公益財団法人元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
田中 由理 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (70611614)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 考古学 / 施釉陶器 / 分光反射率 / 復元的実験 |
研究実績の概要 |
本研究は、筆者が2008 年度から行ってきた平安期緑釉陶器の釉調の色彩学的検討について、継続して研究を展開するものであるが、より深く施釉陶器全般の釉薬の色調のメカニズムや成分を明らかにするとともに、色調分析の方法論を確立することを目的とするものである。 方法としては、①器械計測による分光反射率の分析と平安期緑釉陶器の産地同定、②釉薬のテストピース作成による釉の発色の復元的実験、というこれまでの検討をさらに進めるとともに、③施釉陶器をはじめとした多様な色調を持つ考古資料を測定し、分析方法の確立を目指すという3方向から試みる。本研究は、奈良、平安時代のように文献、絵巻物や伝世資料から明らかになっている時期の色彩研究において、考古資料からのアプローチを可能とするための基礎的研究を行うものである。 今年度は、まず昨年度までの科研「平安期緑釉陶器の色彩学的検討」における方法論の課題を整理し、分析方法を改善するなどの準備段階と位置づけ、器械計測の分光反射率のデータをさらに客観的に捉えられるようにデータ解析ソフトを入手し、これまでのデータのより詳しい解析を進めた。昨年度までの研究では、データ解析の方法が不十分で、科学系の分野の研究者との意見交換が難しい状態だったためである。 また調査としては、兵庫県陶芸美術館の特別展「やきものを科学する-釉薬編-」を見学するとともに、担当者の方にも話を伺った。一方、京都市産業技術研究所で、織部釉など銅の釉薬を中心に、青磁など鉄の釉薬も含めた多様なテストピースの器械計測を行わせていただいた。加えて実際に釉薬の研究開発を行っている研究者に話を伺って、専門的な知識を教えていただき、意見交換を行うこともできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
28年度は、まず27年度までの科研「平安期緑釉陶器の色彩学的検討」において、データ解析の方法が不十分で、科学系の分野の研究者との意見交換が難しかったことの反省から、データ解析ソフトを購入し、これまでのデータのより詳しい解析を進めた。そのことについての成果を28年度には学会や論文で発表することはできなかったものの、データの整理により、一定の成果を上げることはできたと考える。 また資料調査については、京都市産業技術研究所で、織部釉など銅の釉薬を中心に、青磁など鉄の釉薬も含めた多様なテストピースの器械計測を行わせていただき、実際に釉薬の研究開発を行っている研究者に専門的な知識を教えていただくなど、これまでなかったデータや知識を収集することもできた。ただ当初の計画にあった、東海地方など平安期緑釉陶器などの産地資料の調査を実施して、色調のデータを蓄積していく予定であったことについては、十分に実施できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず28年度に不足していた資料調査を積極的に行い、資料の色調データを蓄積していき、これまでの蓄積が多い緑釉陶器の考古学的な検討結果と、色彩学的な検討がどのように生かせていけるか模索していきたい。 また釉調を復元する焼成実験に関しても、緑釉陶器に限らない施釉陶器を研究対象としていることから、銅釉以外の鉄釉も含めたいろいろな原料の釉薬のテストピース作成を試みたい。また無鉛の楽焼釉などを用いて、低火度の緑釉陶器の再現もできればと考える。そうしたいろいろな状況で焼成された釉薬に関して、測色や成分分析などの検討を進めたい。必要に応じて、京都市産業技術研究所をはじめとした窯業研究機関の研究者とも交流し、テストピースの測色データの収集や釉薬に関する知識の収集も行っていきたい。 このようにして、緑釉陶器をはじめとしたさまざまな施釉陶器資料の測色データについて、データ解析ソフトによる分光反射率の解析などを行い、産地や時期ごとの傾向を明らかにするとともに、焼成実験による釉薬のテストピースの測色データ・成分分析データと実際の資料との比較を通して、原料や技法、色に関するメカニズムについても検討していきたい。こうした検討の途中経過については、日本文化財科学会などの学会で発表することも予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の物品費には、分析機器を急な故障により新規購入したため、当研究機関の共用設備として、合算使用として支出した額を含んでいる。これは本来の予算にはなかった出費であったので、その影響もあり、長距離での調査のための旅費が十分ではなく、短距離での調査にとどめた。その為、旅費として使用できず余った額が、次年度使用額として生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、28年度に行えなかった東海地方や九州地方などへの長距離の資料調査を予定している。その旅費として、次年度使用額から支出する予定である。
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