本研究は、筆者が2008年度から行ってきた平安期緑釉陶器の釉調の色彩学的検討について、継続して研究を展開するものであるが、より深く施釉陶器全般の釉薬の色調のメカニズムや成分を明らかにするとともに、色調分析の方法論を確立することを目的とするものである。方法としては、さまざまな施釉陶器・現代の陶磁器・釉薬テストピースなどの反射スペクトルを比較することで、多様な色調を持つ考古資料の測定や分析方法の確立を目指した。 今年度は、昨年度までに測色し、蓄積した緑釉陶器や施釉陶器・テストピースのデータについて、反射スペクトルの比較を行い、緑釉陶器の産地同定をはじめとした、いろいろな釉の色の違いを区別できる可能性について検討し、日本文化財科学会でのポスター発表やいくつかの論文発表などで成果を公表した。具体的には、反射スペクトルのデータを二次微分した二次微分スペクトルを比較することで、濃緑色や淡緑色などの違いをとらえることができるようになり、それぞれの中の色の細分化についても、ある程度の見通しを得たので、これが産地同定に応用できるように今後も検討を進めたいと考えている。また現代の陶磁器を入手して、銅釉のほか青磁(鉄釉)・染付(コバルト釉)など、他の呈色材の釉調についても測色を行い、成分と反射スペクトルの相関関係について分析を行った。 また研究協力者として参加させていただいた石井清司氏代表の科研「平安期緑釉陶器・緑釉瓦生産の他分野協働型研究」の成果発表として京都文化博物館で行われたシンポジウムでも発表する機会を得るなど、緑釉陶器・緑釉瓦の研究者と共同研究をさせていただき、平安期緑釉陶器の最新研究の中で、色調の分析を有効な手段として位置付けられるよう検討を行った。今年度は、本科学研究費の最終年度に当たるため、これらの成果をまとめた報告書を作成し刊行した。
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