研究課題
本研究の目的は、平城宮・京における木器製作について、残された木屑などの痕跡から明らかにすることにある。これまでに、薄板の製作残滓やその製作の解明等、平城宮・京内における木器製作の痕跡をとらえてきた。また、類例として竹製品の製作残滓を資料化して公表し、竹製品の製作についても言及した。これらの成果については毎年、奈良文化財研究所の紀要等で公表してきた。また、奈良時代前半、後半の土坑資料について、同一層位の木製品、切削時の加工屑、自然木等の樹種同定を網羅的におこない、120点余りの樹種データを蓄積した。その結果、加工屑にみられる樹種は自然木の樹種には現れず、平城宮・京における利用材と周辺の植生に差があることを示した。最終年度である2019年は、これまでの成果をまとめ、以下の報告をおこなった。平城京左京二条二坊十四坪から出土した「燃えさし」について樹種同定の成果と遺物の報告を併せておこなった。燃えさしは、火をつけるもしくは火を移す役割を持つ棒状の木製品である。これらは、平城宮・京等で数多く出土する曲物や人形、檜扇など木製品には見られない、木の節の影響を受けたゆがみのある材などが多く用いられている。このことは、平城宮・京において、製材時の端材の利用、もしくは建築部材などの廃材の転用を示しており、平城宮・京における木材利用サイクルを考えるにあたり有用な成果である。また、本研究の目的の一つであった、平城宮跡、平城京跡から出土する木屑について、それらを考察するための方法論を整理した。さらに、形態の分類を進めるために現代の加工具と木屑を対照させた写真図版を掲載した図書、『木屑を考える 古代の木工活動を検討するための一試論』を刊行した。出土遺物としての木屑を検討するための重要な一指標となる成果である。
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木簡の年輪年代学 埋蔵文化財ニュース
巻: 181 ページ: 4
奈良文化財研究所紀要
巻: 2019 ページ: 157 158