本研究は,自治体内分権制度に代表される,自治体内の部分地域において,住民が当該地域に関する事象に関して意思決定や議論を行うための制度について,日英の事例をもとに比較検討するものである.昨年度及び一昨年度に引き続いての期間延長の年度となる本年度は,①新型コロナ・ウイルス感染症の影響で未実施となっていたイギリスでの2回目の調査を2月に実施した.その上で,②日英の事例について比較分析・考察を行った. ①についてはブリストル市のNeighbourhood Partnershipsにかかわる資料を重点的に収集した.具体的にはBristol Archivesにて同制度の設立期や設立前のパイロット事業についての資料を新たに収集できた.また,市役所の職員等へのインタビュー調査から近年の市の包括指針となる「Bristol One City」におけるコミュニティ政策の位置付けを確認できた.その結果,同制度の設立から後継事業(Area Committee)に至るまでの展開を抑えることができた.中でも緊縮財政下における,区域の再編を含む制度や事業自体の見直しの過程を詳細に確認できた点は大きな成果といえる. ②については自治体内分権制度における区域設定をめぐる問題を起点に分析を進めた.イギリスでは区域の単位として,形式地域としての側面の大きい選挙区electoral wardが重視される傾向がある.日本ではコミュニティ活動にとって意味のある区域を単位とする傾向があり,同一自治体でも地域性を考慮して地区により区域の単位が異なる事例も珍しくない.なお,両国とも制度の継続には課題があるが,日本では地縁組織を基盤とした制度が多く,それにより継続の問題が比較的顕在化しにくくなっていると考えられる. イギリスでの調査が年度末となったことから,今年度の成果は引き続き分析・考察を進め,学術雑誌等での公刊を目指していく.
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