研究課題/領域番号 |
16K16954
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
網島 聖 京都大学, 総合博物館, 特定助教 (70760130)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 同業者町 / 産業化 / ネットワーク / 制度 / 組織 / 医薬品産業 / 材木業 |
研究実績の概要 |
本研究は、後発の産業化国であった近代の日本において、大都市内産業集積が地域形成に果たした役割を、リージョナル、ナショナルスケールのネットワークに位置づけて明らかにすることを目的としている。そのためには、基礎的作業として①ネットワーク状の結節点となる大都市同業者町の実態を詳細に検討することと、②同業者町と各地の業者を結びつけるネットワークの特質を解明することが重要になる。 本年度は、①について近代大阪の医薬品産業同業者町の事例と材木業同業者町の事例を比較検討し、同業者の制度・組織が同業者町の形成や維持に与える影響について分析した。その結果、同業者町の制度・組織を有効に作用させるためには、制度・組織が開放性をもちつつ、時には法規や行政による適切な介入も必要であることが明らかにされた。なお、以上の成果は査読付き論文として公刊した。また、大阪の事例をより一般化するため、東京日本橋の医薬品産業同業者町において株仲間や同業組合といったローカルな制度・組織がいかに同業者町の維持発展に寄与していたかも検討した。この内容については、国際学会(The 33rd International Geographical Congress)にて口頭発表した。 ②に関しては基礎的な資料調査とそのデータベース化を進めた。具体的には、大阪道修町や東京日本橋本町の同業者町と恒常的に取引関係を結んでいた九州地方の有力業者の存在と、その間で交換された情報や取引の実態を解明を目指し、『九州薬業家列伝』『九州薬業家案内』掲載情報のデータベース化を進めるとともに、一部未入手であった『薬業家同盟電信暗合帳』および業界紙『九州薬報』に関する資料調査を敢行した。これにより、来年度以降、大阪道修町の医薬品業者と九州各地、とりわけ福岡の同業者の結びつきをより詳細に解明できるものと期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は同業者町の実態に関する基礎的な検討を国際学会での口頭発表、査読付き論文として公表することができた。また、最大の目的であった九州地方の医薬品業者と彼らと大阪の同業者町の結びつきに関する基礎的な資料調査を、順調にほぼ終えることができた。 ただし、新資料の発見などにより、資料収集の範囲が当初予定より広がったため、データベース化の作業は途中で見通しを変更せざるを得なかった。そのため、データベース化作業の人件費に充てる予定であった予算は資料収集に転じて用いることにした。しかしながら、この作業の遅れは軽微なもので、次年度以降の予定に大きな変更を迫るものにはなっていないので、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、アルバイトの助力を得つつ、まず前年度に引き続き九州地方の医薬品業者と彼らと大阪の同業者町の結びつきに関するデータベースの完成を急ぐ。その後、予定通り業界新聞の紙面掲載情報による同業者ネットワークの質的分析を進めていく。具体的手順は以下のように予定している。すなわち、『大阪商工名鑑』記載の実業刊行物の情報や、『東京大学法学部附属 明治新聞雑誌文庫所蔵図書・資料目録』により、医薬品産業業界新聞の網羅的調査を進め、他地域の業者に関連する記事が掲載された紙面を収集することで、記事の内容と記載業者に関するデータベースを構築する。次に、紙面における国内、旧植民地等の各地域に関する記事を分析し、その中に登場す る業者を平成28年度から構築した主要業者データベースにより同定し、道修町との結びつきを明らかにする。以上の 作業によって、同業者町が医薬品業者のネットワーク上でノードとして果たした役割を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新資料の発見により当初予定より資料調査の範囲が広がったため、人件費に予定していたものを資料収集に転じることになった。また、データベース化作業を十分進めることができないと判断したため、この作業は次年度へ一部繰り越したことにより差額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度に残した作業を進めるためにも、医薬品業者データベース作成のための人件費に補充して用いる予定である。
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