本研究は、後発産業化国であった近代期の日本において、大都市内部の産業集積地、とりわけ問屋・卸業の機能によって特徴付けられる同業者町をローカル、リージョナル、ナショナルな空間スケールに対応するネットワーク上のノードとして検討し、それらが近代の産業化と地域形成にいかなる役割を果たしたのかを明らかにすることを目的とした。具体的には主に医薬品産業を事例としつつ、①ネットワーク上の結節点となる大都市内産業集積(同業者町)の実態とその内部の商工業者ネットワークを詳細に検討すること、②大都市内産業集積と各地の業者を結びつけるネットワークの特質を解明すること、そして③それらの成果を後発産業化国の事例として適切に位置付けて一般化するため、先進産業化国(特にイギリス)の事例との比較検討を行うという課題に取り組んだ。 本年度は前年度までに行った検討成果をそれぞれ学会にて口頭発表するとともに、著書、論文にまとめて公表する作業を行なった。①についてはこれまでの大阪における同業者町の検討結果をまとめるとともに、英語圏での産業化期の地域形成に関わる成果との比較も行い、単行本にまとめて公刊した。また、大阪の事例から得られた知見を一般化するべく、東京日本橋本町の同業者町の維持と制度の転変について単著論文にまとめた。 ②については、前年度までに検討してきた大阪の医薬品業者による電信の利用とそれによる全国的ネットワークの形成について取りまとめ、国際会議にて口頭発表した。また、前年度から継続して九州地方でのフィールドワークを行い、大阪道修町と九州地方における医薬品業者の結びつきについて資料収集を行った。 ③については、英語圏における産業化と地域形成に関わる過去30年余りの研究史と現在の議論の焦点を整理し、近代日本の研究に応用可能な視点について展望し、2018年度経済地理学会関西支部例会において口頭発表した。
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