研究課題/領域番号 |
16K16956
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
陳 林 広島大学, 文学研究科, 特任助教 (40730544)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 珠江デルタ / 農村労働力 / 大都市 / 労働市場 / 分断構造 / 労働集約型製造業 / 労働力不足 / 移動チャネル |
研究実績の概要 |
本研究は、構造転換期の中国を対象として、経済構造の再編に伴う労働力移動のメカニズムと空間構造を解明することを目的とする。本研究は上記の目的を達成するため、主に労働力の地域的差異とその要因、都市労働市場の構造および労働者の移動性に関する体系的な解明という三つの側面から実証的な検討を行う。 平成29年度は中国東部沿海地域における都市労働市場の構造を解明することに重点を置いた。研究方法としては主に統計データおよび現地でのフィールド調査に基づいて進めた。そのため、都市労働市場の構造を解明するのに重要である地域の産業構造を把握すべく、中国の経済センサスのデータを網羅的に収集した。また、小地域レベルの経済統計データはアメリカのミシガン大学のデータベースから入手している。現在はこれらのデータに基づいて、中国東部沿海地域の産業構造を解析しているところである。 現地での調査は主に中国珠江デルタの広州市を対象とした。その中で、今年度調査できたのは近年労働集約型産業が集中している広州市の郊外地域である。これらの地域を選択した理由は、内陸部の農村出稼ぎ労働者の受け皿として重要な役割を果たしていることである。現地調査は2018年3月3日から3月16日までかけて行った。この期間中、企業計5社へのインタビュー調査ができ、また、企業側の協力を得てその従業員へのアンケート調査も実施できた。これらの調査を通じて、農村労働力がいかなる移動チャネルを通じて都市労働市場に参入しているのかを検討でき、都市労働市場の分断構造の解明が可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は前年度収集してきた統計データに基づいて、中国における経済構造の転換のもとで、農村労働力の移動がいかなる空間的な特性を有しているのかを解析した。その一環として、中国における経済空間の再編は、労働力の移動およびその配置に与えている影響を分析した論文がすでに掲載された。また、前年度で実施した中国沿海部の中小都市でのフィールド調査はThe 12th Japan-China-Korea Joint Conference on Geographyで発表し、中国地理学会から優秀発表賞を受賞された。 また、出稼ぎ労働者が集中している中国東部沿海地域における都市労働市場の特性は珠江デルターの広州市を対象に考察できた。当初は出稼ぎ労働者と都市住民がそれぞれどのように都市労働市場に参入しているのかを検討する予定であった。しかし、調査の可能性を踏まえた上で、今年度は出稼ぎ労働者のみに集中して調査を実施した。その結果から、中国東部沿海地域の都市労働市場は農村労働力の移動チャネルによって分断していることを解明できた。 さらに、次年度の調査に関しては現地調査の期間中、中国中山大学の教員と議論を重ね、その目途がついている。以上の成果により、今年度に予定していた目標は概ね達成したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は労働集約型産業の空間的拡大に伴う経済構造の再編は労働力の移動性への影響を検討する。研究対象地域としては中国珠江デルタの周辺地域を予定している。調査は主に新たな都市経済空間の形成は農村労働力における出稼ぎ就業の移動性を高め、農村労働力の流出を促進していることを検証する。8月から9月にかけて、中山大学および華南理工大学の教員と研究の打ち合わせを行うと共に予備調査を実施する。2月から3月にかけては、労働集約型工業が集中している周辺地域の工業団地において本調査を行う予定である。 また、昨年度収集した統計データによる分析結果およびフィールド調査の研究成果は日本国内の学会および国際学会に発表し、さらに学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度に使用額が生じたのは主に当初予定していた謝金の支出をしなかったことによる。 (使用計画) 謝金については次年度の予備調査および現地調査に充当する。
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