研究課題/領域番号 |
16K16957
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
久木元 美琴 大分大学, 経済学部, 准教授 (20599914)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 保育 / 子育て支援 / 都市部 / 待機児童 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究実績は大きく以下の点にまとめられる。 第一に,日本の大都市圏において保育需給のミスマッチを招いている構造的要因に関する論点を既存データおよび文献から整理・分析し,保育制度のみならず都市構造に関する課題を学術雑誌において提言した。その中では,待機児童が都市部で顕著に発生する背景には、人口規模の大きさのみならず、日本の大都市(特に東京圏)が内包する世帯構造,女性の働き方の特性によって生じた施設配置の歴史的経緯と国全体の制度変化との時間的なずれ,職住分離と長時間通勤の生活スタイルが需給整合をさらに困難にしていること,近年の都心再開発とファミリー世帯人口の都心における増加(都心回帰)によって保育獲得競争が発生していること,2015年に開始された保育新制度により課題が解消されている部分もある一方で施設ハード面の整備のみでは限界があり,子育てや就労を含む生活スタイルに着目した都市構造全体の構想が必要であることを指摘した。また,上記の日本における論点整理を踏まえたうえで,パリ大都市圏をはじめとするフランスの都市構造および社会保障,保育施設整備に関する文献・既存データの収集と分析を行った。 第二に,日本の保育新制度の影響について,特に小規模保育や家庭的保育,事業所内保育等の新たな施設形態の導入について,地方自治体や施設運営者への調査からその影響を分析し,課題を析出した。平成29年度については,保育施設整備において重要なターニングポイントとなった保育新制度の影響を分析するため待機児童問題が深刻な地方都市の自治体にも対象を広げ調査分析を行ったほか,需給バランスのミスマッチについてGIS等を用いた分析手法を検討した。これらの内容をまとめ,複数の国内外の学会において成果報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は,主に日本国内の大都市圏における保育所不足を招く構造的要因の分析とともに,現地調査を進め,保育供給増加が期待された保育新制度の影響について分析を進めることができた。調査を進めるなかで,特に保育所待機児童問題を抱える県庁所在都市クラスの地方都市でも,大都市圏と共通した課題を有していることが判明したため,東京大都市圏における分析結果を相対化し固有の課題を析出する目的で,調査対象地を広げた実態調査を進めた。同時に,フランスの大都市圏および保育制度に関し国内で得られる文献・データの収集を進めた。以上から,国際比較を進めるうえで必要となる,都市構造による要因と制度的背景による要因を腑分けした分析が可能になることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には,前年度までに進めてきた研究成果をもとに,以下の作業を進める。まず,日本の大都市圏における保育施設整備の状況について,特に新制度導入後の影響に着目した実態調査を進めると同時に,前年度までに実施した県庁所在都市を含む都市部の事例を含め,学術雑誌への論文投稿のほか,日本地理学会・人文地理学会等の全国規模の国内学会および国際学会(8月International Geographic Conference)等において発表する。次に,海外現地調査に向け前年度までに行った文献・データ分析を踏まえ,パリ大都市圏を中心とした現地調査を実施し,特に都心周辺部における小規模な保育施設の配置やその計画策定について,現地資料収集を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に海外現地調査を実施する予定であったが,調査を進める中で制度的影響の分析のため国内都市での調査が必要になり海外現地調査を次年度以降に延期したことから次年度使用額が発生した。平成30年度には海外現地調査を行うほか成果報告のための国際学会参加のために,旅費および人件費・謝金として使用する。加えて,研究成果の国際的な発信として英語書籍の刊行を予定しており,共同研究者との研究打ち合わせやこれまでに報告された成果の翻訳校正費用にも使用する計画としている。
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