本研究の目的は、グローバル化の進展によって日本の農業や食を取り巻く環境がダイナミックに変化している中で、食の安全・安心の確保を図るために、ブランド化を積極的に推進している農産物産地を事例に、地域ブランド農産物の形成主体によるバリューチェーンの構築を明らかにすることである。 三年目である平成30年度は、補足調査の必要性が生じたのでフィールド調査を行い、また、これまで調査・分析した結果を学会等で報告するなどして、農業(食料)・農村地理学を研究している研究者に助言を求めたり、情報交換を行った。 そして、平成28、29、30年度の計3年間の研究のまとめとして、農と食を結ぶ農産物の生産・加工・流通主体によるブランド化のメカニズムとその空間的特性を考察した。農産物産地は、立地、生産する農産物の商品的性格と生産・出荷規模などに応じて、多様な販売チャネルの中から多種多様な取引・分業体制を構築している。その中でも農産物・食品のブランド化は、品質だけではなく、産地や銘柄、歴史や文化、自然、エピソード、食の安全、認証評価が価値に大きく関与していた。また、産地のブランド化戦略は多様性に富んでいた。 さらに、事例調査で蓄積した情報をもとに比較し、農産物のバリューチェーン(価値創造の供給連鎖)の構築の体系的把握と理論化を検討した。地域ブランド農産物の形成主体の機能、役割、関係性について、供給連鎖(フードチェーン)からのアプローチは、地理学でもとても有効であるといえる。しかし、3年間の調査研究で、研究者自身の勉強・調査不足で、事例数が少なかったため、体系的な把握と理論化には不十分だったと反省している。基礎的な研究の枠組みはできたので、今後も継続してこの課題に取り組み、今後の日本の農業政策がとるべき方向性や地域農業の衰退の抑制、農業・農村振興の手がかりを掴めるように、研究を進めていきたい。
|