研究課題/領域番号 |
16K16960
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
日比野 愛子 弘前大学, 人文社会科学部, 准教授 (00511685)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 多重性 / 科学技術社会論 / 道具論 / 人工物 |
研究実績の概要 |
本年度は、当研究テーマに関する理論的な枠組みの整理と、生命工学ラボラトリーへのフィールド調査を進めた。本研究では、科学の実践を次の3つの側面からとらえることを提唱している。すなわち、細胞という研究(操作)対象、対象にアプローチするための道具、知識を生み出す共同体である。初年度は、理論的な枠組みの整理として、多重性に関わる概念を科学技術社会論、組織論、イノベーション論等よりレビューした。近年では、複数のテクノロジーや関与者を一つの自律的なまとまりとしてとらえるシステム論的なものの見方が注目されている。これらの先行研究では、一般的なテクノロジーを事例として、AというテクノロジーがBというテクノロジーへと転換していく様態、あるいは、両者の相互作用を考察している。しかし複数のテクノロジーが同時的に折り重なることへの視点や、そうした多重性が生みだす課題について吟味した研究はまだ少ない。科学者・エンジニアが実際に実験室を運営していくプロセスにおいては、複数の専門機器や実験システムを持つが故の困難、たとえば別領域との調整など、道具の多重性が課題となってくる場面も想定される。 以上の枠組みを参照しながら、国内の生命工学に関する研究会、また、当該分野をリードする大規模実験室においてフィールド調査を行った。 当研究課題の成果については、一部を国内学会口頭発表(2件)、ならびに、国内学術雑誌(原著論文・査読あり)(1件)にて公表した。また国内・海外の科学技術社会論専門家とは定期的に交流をはかり、当該研究にかかわる理論的・方法論的な示唆を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず先行研究のレビューにより、本研究課題で深堀すべきセクターを明確にすることができた。研究対象-道具-共同体のつながりを検討する上で考慮すべき事項は多岐にわたる。「研究対象と実験道具」の相互作用、あるいは「実験道具と科学共同体」の相互作用については、科学技術社会論で多くの概念や事例が提出されてきた。たとえば、ナノバイオ領域では、実験道具が発達し共同体が生成されていく過程で産業の役割が大きいことが指摘されている。とくに道具(モノ)の多重性とその産業的な意味合いについて注目することが有用であることが明らかとなった。 本年度のフィールド調査では、主に観察とインタビュー調査を通じて、対象ラボラトリーにおける、1)研究対象、2)用いられている道具、3)背景知識についての情報取集ができた。協力ラボは、国内の中でも有数の大規模実験室であり、調査で得た基礎的な特徴は、当該分野の動向をつかむうえでも参考になる。 またフィールド調査からは、「多重性のマネジメント」という課題が明らかとなったことが大きい。マネジメント課題については、暫定的に下記の2種類の論点があると考えている。1)ラボの運営戦略上のマネジメント。2)意味上での自律的なマネジメント。 以上より次年度以降に調査項目・調査対象を絞ったうえでの研究を進めることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降の調査においては、以下の方策により進めていく。 1)生命工学の実践に含まれる多重性の中でも、道具(モノ)の多重性に焦点を当てる。2)道具の多重性がどのようにマネジメントされているかを明らかにする。意味論的ネットワークの在り方と運営戦略上の工夫を明らかにする。3)道具について、とくに産業化のプロセスに注目する。 それぞれの具体的な調査計画は下記の通りである。1)道具(モノ)の多重性については、文献調査、ならびにフィールド調査を進める。当該分野で生成される道具は、研究対象に近い人工物としてのモノ、研究機器としてのモノへと大きく区分される。その関係性について整理・分析する。2)多重性のマネジメントについては、昨年度行ったフィールド調査結果の分析を進めるとともに、同じ研究室に対して二度目のフィールド調査を実施する。3件の半構造化インタビューデータが得られており、深堀の準備は整っている。3)道具の産業化プロセスについては、文献調査を進める。適宜、関連企業へのインタビューも予定しているが、現在進行中のプロジェクトに関わるヒアリングは難しいため、公表された成果物に対する回顧的インタビューを実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
インタビューデータのトランスクリプト作成費用を計上していたところ、録音が可能であった件数が想定していた件数よりも少なかったため次年度使用額が生じた。フィールド調査と文献調査は計画通り進めており、研究の遂行に支障はない。
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次年度使用額の使用計画 |
研究打ち合わせのための旅費費用として使用する。
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