昨年度に引き続き、フィンランドの高齢者を支える制度外親族介護実践について、2018年8月と2019年2・3月に計60日程度の実地調査を行った。研究期間全体では通算で150日程度の調査を行ってきたこととなる。 今年度の調査では、高齢者およびその家族の暮らす住宅について集中的に質問した。高齢者が在宅で暮らし続けるためには住宅を維持するための様々な「手入れ」が必要であり、家族が重要な役割を果たしていることが分かった。また、人びとは若年期から家を購入したうえで頻繁に買い替えを行っており、老年期には高齢者向け住宅への買い替えも起こっている。その結果として、不動産の子世代への相続がきわめて不確実で予想の難しいものとなり、家の継承についての構造的な困難が、現在の家族・親族の介護実践にも影響を与えているのである。 研究期間を通じて、高齢者の制度外介護関係に影響を与える様々な要因が浮かび上がってきた。具体的には、今年度に調査した住宅の所有状況の他に、これまでのライフコース、子世代における離婚・再婚の増加、公的な高齢者ケア制度とその民営化等が挙げられる。これらの要因は、ポスト個人化としてまとめることができるような家族形態の変化とも深く結びついており、制度外介護という実践として結実していると考えられる。 以上のような研究成果について、今年度はIUAES(International Union of Anthropological and Ethnological Sciences)の第18回世界大会、日本文化人類学会第52回研究大会で発表を行い、プロシーディングスにも掲載された。期間全体を通じ、国際学会での発表を計6回行ったことになる。また、人類学的再分配研究をテーマとする論集において、調査地の緊急通報システムを題材として、高齢者ケアをめぐる公私の配分が変化しつつある状況についての論考を分担執筆した。
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