研究課題/領域番号 |
16K16964
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
野澤 豊一 富山大学, 人文学部, 准教授 (80569351)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 文化人類学 / 民族誌 / 宗教 / アメリカ黒人 / ペンテコステ/カリスマ派キリスト教 / 発話 / パフォーマンス |
研究実績の概要 |
20世紀の半ば以降、急速な勢いで世界中に広がりつつあるペンテコステ/カリスマ派キリスト教は、ポストモダンを代表する宗教現象のひとつである。その特徴には、大音量で演奏される音楽や会衆歌、パフォーマンス的要素の多い牧師の説教とそれに対する信者の熱狂的な反応、聖霊によって引き起こされるという忘我的な発話やダンスなどがある。 本研究は、アメリカ合衆国のアフリカ系住民のペンテコステ/カリスマ派キリスト教を取り上げて、“表現”が“信仰”を強化するという仮説を検討するものである。そのために、礼拝儀礼で頻繁に行われる「信仰告白」「祈り」「異言」などの言語的な表現行為(発話行為)の音声データを収集し、分析する。これにより、各々の発話形式の特徴やパフォーマンスとしての性格を見極める。また、信者がペンテコステ派キリスト教に回心するいきさつについてもインタビュー調査によって明らかにする。これにより、発話パフォーマンスを実践できるようになることと自身の信仰に確信をもつことのあいだにある関係を明らかにすることを目指す。 平成28年度は約2週間、アメリカ合衆国のセントルイス市(ミズーリ州)において文化人類学的フィールドワークを行った。予定よりも短い滞在であったため、期待されたほどの調査データは集まらなかった。他方で、5年ぶりに訪れた調査対象のキリスト教会には多くの変化を見ることができ、ローカルな場で実践される民衆的宗教のダイナミズムを考察するために有益な調査となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究を計画していた当初は、初年度にあたる平成28年度には、夏季と春季に3週間程度の調査を1回ずつ、合計で6週間程度の現地調査を行い、その成果を口頭発表や論文にまとめる予定であった。しかし、学内業務の多忙に加えて、家族の健康上の問題が急遽起こったために、春季に約2週間の現地調査を行うのが精一杯であった。 約2週間の文化人類学的な現地調査(フィールドワーク)の内容は次のとおりである。調査地は、アメリカ合衆国の中西部にあるミズーリ州セントルイス市である。ここで、これまでも調査を通じてつながりのあった、2つのペンテコステ派の(ないしペンテコステ派の影響を強く受けた)キリスト教会において、礼拝儀礼の観察を行ったり信徒へのインタビュー調査を行ったりした。調査期間が限られていたために、当初予定していた信仰告白や祈りといった礼拝儀礼中の宗教的発話や、ペンテコステ派キリスト教への回心の語りを収集することはあまりできなかった。 その一方で、思わぬ成果もあった。とりわけ、2014年にセントルイス郊外のファーガソンで起こった黒人青年射殺事件とその後の暴動やデモ、さらにはそれが引き金となって全米に飛び火した一連のデモに対する一般のアフリカ系アメリカ人たちの考えを、多く聞くことができたのは大きな収穫であった。また、前年に起こった政治的な大転換に対する人々の意識についても同様である。こうした意識と宗教とがどのように関わり合うかを見極めるには今後も継続して調査を行う必要があるが、ナショナルな政治とローカルな文化実践の相互作用の貴重な事例研究へとつながる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおりの大学業務の多忙と家庭内の事情は、平成29年度も継続する見込みである。そのため、平成29年度も、当初計画していたのべ6週間程度のフィールドワークを、4週間程度に短縮する必要がある。得られる調査データはそのぶんだけ少なくなるが、調査対象とするキリスト教会の数を予定していた3から2に減らすなどすることで、質の高いデータを確保することを目指す。 調査は、引き続き米国ミズーリ州セントルイス市で行う。信仰告白や祈りといった宗教的発話を音声および映像で記録したり、ペンテコステ派キリスト教への回心の語りを収集したりするのが主な目的である。これに合わせて、新たに浮上したテーマ、すなわち、この5年ほどのあいだに起こった黒人社会を取り巻く変化と各々のキリスト教会における宗教実践の関係についても、予備的な調査を行う。 調査は夏季に行う予定である。その後は、データを整理・分析し、学会での口頭発表や学術論文にまとめるための準備を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画では、本研究の経費の大半を海外での調査旅費が占めていた。ところが、上記の理由により現地調査をかなり短縮せざるを得なかった。その分、文献等を購入することで研究を進めたが、当初の予定通りに経費を使うことはできず、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、28年度と比べて長期間の現地調査を行える見込みであり、主にそのために次年度使用額を充てることになるであろう。ただし、28年度の短縮分すべてを補うことは困難であると思われる。その場合には、文献資料等を購入して研究を進めることになる。
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