本研究は、法や社会規範などの社会的ルール(共同体における協力規範・取引ルール・組織ルール)がどのような系譜を辿って形作られてきたかを、系統学の方法を用いながら明らかにすることを目的としている。過去および現在の社会的ルールを広く収集したうえで類縁関係と系統分化の過程を推定し、社会的ルールの普及または消滅の軌跡を示す。今回の研究期間内の目標は、ルールの発達や変容の過程を経験的に探究するための土台となりうる理論を構築することである。 研究の3年目にあたる2018年度は、(1)日本の中世~近代の取引ルールに関する文献研究および調査を実施するとともに、(2)取引ルールおよび組織ルールに関する調査を行い、(3)以上の調査で得られたデータを整理するという作業を順次行った。それに加えて、(4)2年目までの成果の一部を反映した論文を発表した。 本研究では、文化系統学の手法を使った先行研究を検討したうえで、無尽講・頼母子講をはじめとする相互扶助の慣習、企業が従っている取引上のルール、組織内のルール、大学の倫理憲章などを調査し、多様な種類のデータを収集した。これらの調査から鍵となる要素として浮かび上がったのは、その時々の経済環境と、人々の集団ないしネットワークである(特に無尽講・頼母子講の変遷プロセスはこの点できわめて示唆的であった)。経済状況や市場が変動していく中で人々がどのようなルールを採用・変更してきたのか、その過程において人々がどのような集団やネットワークを形成または解消してきたのか。学術的にも実践的にも重要なこれらの問いに対して的確な答えを出すためには、事例分析を拡充して諸要素の因果関係を解明することが必要になる。 2019年度からは基盤研究(C)「市場の動態とルールの変遷過程:系統学的アプローチ」(課題番号19K01258)に移行し、因果関係についての問いはそこで取り組まれる。
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