研究課題/領域番号 |
16K16976
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 智晶 青山学院大学, 法学部, 准教授 (20554463)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人工知能 / 製造物責任 / 自動運転自動車 / 技術水準 / 欠陥 / 進化的なアルゴリズムを含むソフトウェア / イノベーション |
研究実績の概要 |
本研究は、人工知能という新しい技術革新によってアメリカ製造物責任法にどのようなインパクトが生じているのかを分析し、日本における議論の手がかりを得ようとするものである。 1年目は、アメリカ合衆国において、人工知能の発展から製造物責任法が議論されるようになった背景と、当該議論の射程を明らかにすることができた。具体的には、自動運転自動車以外に、主に医療分野における診断支援技術が発展しつつあり、製造物責任法の議論の口火が切られたのは、製造物責任訴訟によってイノベーションが阻害されうるという懸念からである。アメリカ合衆国では、全米工学アカデミーなどを中心にして1990年代から、製造物責任とイノベーションの関係性について詳しく検討されており、その潮流が人工知能についてもほぼ等しく当てはまる。 製造物責任法のさまざまな論点の中で、最も注目が集まっている論点は、進化的なアルゴリズムを含むソフトウェアの欠陥である。具体的に言えば、製造業者にとって損害が予見可能かどうか、が重要である。言い換えれば、当該ソフトウェアが生み出された当時の技術水準が争点となる。すなわち、アルゴリズムないしソフトウェアをどうやって検証した後、市場に出せばよいのか、そして事故が発生したらソフトウェアがもともとの設計どおりにプログラミングされていたか、アルゴリズムないしソフトウェアの設計が合理的で、警告は十分であったか、さらには当該アルゴリズムないしソフトウェアについて、市販後の適時に、設計当時ではなく事故当時の技術水準で合理的な再検証と修正を行っているかが争われることになる。損害のリスクの中では、サイバーセキュリティが最大の懸案と考えられていることが分かった。 最後に、条約(ウィーン道路交通条約など)や免許を含む行政規制は、製造物責任における技術水準の設定に大きな影響を及ぼしうることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、アメリカ合衆国において、人工知能の発展から製造物責任法が議論されるようになった背景と、当該議論の射程を明らかにするため、主に論文データベースの解析を行う予定であったが、”Web of Science”などを用いて、「人工知能と法」に関係する論文をリストアップし、記載内容に応じて分類を進めることができた。 論文データベースで明らかになりにくい背景事情や最新の動向については、先進的な行政規制をしているミシガン州で開催されたカンファレンスに参加し、情報収集した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、調査の対象が法令や判例に移るため、WestlawやLexisのデータベースを活用するとともに、必要に応じてインタビューを駆使する。まず、関連する諸判例を類型化し読み解いて、判例法を理解する。 次に、各州で進められている関連立法の状況について、内容を分類して表にする。州の立法状況については、スタンフォード・ロースクールによる”Automated Driving: Legislative and Regulatory Action”だけでなく、WestlawやLexisのデータベースを駆使して網羅的に調査を行う。 加えて、連邦議会や連邦の行政機関による規制の動向も調査する。連邦議会や連邦の行政機関の動きについては、連邦議会調査部のレポートなどを参照して端緒を得た後、一次資料に当たって解明する。 最後に、全体としてアメリカ合衆国における人工知能を巡る製造物責任法の動向として、判例法と制定法のトレンドを示すため、何らかの指標化を試みる。
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