最終年度は、アメリカ合衆国の製造物責任法の変容や展開を踏まえて、定期的に研究会を開催して、日本において人工知搭載制技術や製品を活用するための選択肢を複数示すことができた。研究会については、経済産業研究所における「人工知能のマクロ・ミクロ経済動態に与える影響と諸課題への対応の分析」に定期的に出席させていただき、製造物責任を含めて人工知能技術の実用化に関する問題を議論した。製造物責任法の変容や展開を踏まえた選択肢については、結論としてではなくあくまで暫定的な考えとして、「シンギュラリティと法 : 人工知能の急速な発展における製造物責任などの考え方の変容」としてまとめた。 現在のところ、人工知能技術の発展は過渡期であり、必ずしも製造物責任訴訟が増えるかどうかは明らかになっていない。むしろ、現在のところ、人工知能技術の支援を受けている人間が最終責任を負う、という切り分けの下で技術利用が進んでいることから、製造物責任よりも技術を使用した者の過失責任が問題となりやすい。もっとも、中長期的に見れば、技術利用における人間の関与は漸進的に減っていくため、そこでは製造物責任が大きくクローズアップされることになる。 保険の観点からは、責任主体を事前に明らかにする必要性が説かれるものの、必ずしも簡単ではない。技術を利用した人が原則として責任を負う、という基本的な考え方が変わらない限り、保険の基本的な在り方は変わりにくい。もっとも、事故の件数や損害額が減れば減るほど、保険の保険料は小さくて済むため、保険設計や保険の担い手に与える影響は小さくないだろう。
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