研究課題/領域番号 |
16K16982
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
江藤 祥平 上智大学, 法学部, 准教授 (90609124)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 憲法 / 立憲主義 / 公共性 / 他者 |
研究実績の概要 |
本年度の主な実績は、著書『近代立憲主義と他者』(岩波書店、2018)を刊行したところにある。これは過去2年の研究成果の集大成をなすものである。 従来の憲法学は、国家権力を「他者」とみなし、「個人」を確立することにもっとも注力してきた。それが人権論の業績であり、この点についてこれまでの憲法学の方向性は間違っていなかったものといえる。他方、国家権力をわがものとして引き受けて論じる傾向は少なかったようにみえる。「抵抗の憲法学」と揶揄されることもあるが、それも全く理由のないことではない。 本著書の意義は、ひとえに国家権力そのものを国民が引き受けることの意味を突き詰めて考えたところにある。つまり、国家権力を他者と遠ざけるのではなく、自らそれを引き受けることが、憲法の想定する国民主権に合致するという見方である。 その際に用いられたのが、現象学という方法である。物事の本質を見極めようとする現象学の方法は、従来、憲法学で論じられることはほとんどなかった。むしろ政治哲学を重視して、既存の概念の正当化を試みてきたからである。しかし、政治哲学による正当化は、物事の本質、人間の実存の在り方を前提とするだけで、直に捉えることはできない。そこで現象学によって、国家の、人間の本質に迫る必要が生じたわけである。 そこから見えてきたのが、人間は自己という観念の内にすでに内なる他者を抱え込んでいるという現象である。これは人間は一人では生きられないという類の議論ではない。およそ人間の本来的な生き方を際立たせようとするなら、不可避的に自己の内なる他者と向き合いざるをえないということである。 そこから見えてきた憲法の姿は、これまでのものとはずいぶん異なるものである。一言でいえば、それは無関心でいられない形で、よりよき統治形態を求めて議論する市民の姿である。さらなる詳細は、本著に譲るほかない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、予定通りに進行している。従来の計画通り、研究の集大成として著書の形で研究成果をまとめることができ、その中では新しい公共性の在り方を描くことができたように思う。研究成果の報告についても、さまざまな場所において実施することができた。 もっとも、研究成果をまとめ上げようとする中で、本来であればもう少しゆっくりと時間をかけるべきところに時間を割けなかった点はある。たとえば、人間の実存的生の在り方と憲法9条の関係については、戦後日本の議論をより丁寧に追わなければならないところ、十分にフォローすることができず、一応の結論にとどまっているところがある。この点は今後の課題としなければならない。また、海外における研究発表を未だなしえていないことも、反省材料の一つとして挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、予定通り、これまでの議論と天皇制の接続可能性を探ることに費やされる。西洋にとっての他者は国家以前に神であり、それゆえ現在でも国法の最高法規性は必ずしも自明ではない。それは市民的不服従の考え方に顕著に現れている。 他方、日本にとっての他者は国家以前に天皇、あるいはそこから神話まで遡る無限の連鎖がある。くしくも、近時天皇の退位問題を経て、天皇制の在り方の議論が深まっている。しかし、そこには本研究の問題意識である他者の視点が決定的に欠落している。 国民主権と天皇制の関係、人権と天皇、これらの問題はこれまで憲法学がうやむやにしてきた問題である。最終年度と時間は限られているが、この点についての研究を深めることで、本研究課題は一応の終了をみることになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入を先送りしたこと、旅費の消費を差し控えたことが要因として挙げられる。次年度は、予定通り物品購入するとともに、研究報告のため旅費を用いる予定である。
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