研究課題/領域番号 |
16K16983
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福岡 安都子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80323624)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グロティウス / ホッブズ / スピノザ / フベルス / Biblical Argument / Secularization / 人権史 |
研究実績の概要 |
本計画の第一年目である2016年度は、視野を広く採り、様々なチャンネルを通じて問題状況を概括的に得ることに努めた。 第一に心掛けたのは、学会参加や研究施設訪問を通じ、最新の研究動向に生の形で触れることである。2016年4月にボストンで開かれたRenaissance Society of America(RSA)年次総会(ハーバード大学・ボストンカレッジ共催)を始めとして、国内外の学会に複数参加し、それぞれ非常に収穫があった。特に4月のRSA学会では報告を担当し、貴重なフィードバックを得ることができたのはもちろんであるが、報告を担当しない学会参加の際も、報告者との質疑応答を通じて学ぶところが多かった。さらに欧州出張中には、そこで再会した旧知の先輩研究者にこれまで書いた英語原稿を読んで頂く機会に恵まれて幸運であった。 第二に心掛けたのは、古典の読解から比較的新しい研究論文まで、多様なタイプの文献に目を通すことである。古典の読解に関してはイェリネックについて特に成果があり、人権概念の形成過程について貴重な視座が得られたように思う。また、フランスのカトリック系論者、あるいはユダヤ系知識人による論考など、これまでの狭義のオランダ研究領域とはまた異なるバックグラウンドの論者がグロティウスやホッブズ、スピノザの生きた時代をどのように評価しているのか、多様な視点に触れることに努めた。 これらの活動を通じ、「近世自然法論」に係るヒストリオグラフィーについて視野が当初よりもずっと広がったように思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最短経路で堅い業績に落とし込めそうな道筋ばかりを追うのではなく、多少拡散傾向になるのを敢えて恐れず、なるべく多様な流れに接するという計画初年度としての今年度の目標は、かなり達成されたように思う。 ただし同時に、最近年の欧州政治状況のさらなる展開により、宗教と政治を巡る議論が(計画作成時の予想以上に)加速度を増していることも強く実感され、その全体像を得るには到底追いついていない。 また、方法論を互いに大きく異にする複数の先行業績(例えば抽象的な思想系論文と地道な史料読解系の論文の違いなど)をどのように有機的に結び付けるか、また、各論者自身がその生きた国や時代に拘束されている、そうした研究者自身のcontextをどのように扱うべきかなど、(視野が広がったことの当然の帰結ではあるが、)新たな課題が現れた。
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今後の研究の推進方策 |
「11.現在までの進捗状況」欄に記した事情により、次年度以降の研究の進め方にはなかなか悩ましいところがある。つまり、現在進行形で発展していく議論状況をフォローするという要請、資料を精確に読み解き自己の分析として目に見える形に表現するという要請、そしてさらに同欄最後に記した諸点など、方向性がそれぞれに異なるベクトルをどのように一つのプロジェクトとしてまとめていくかという課題である。さしあたり当初の研究計画に立てた目標を中心に作業する予定ではあるが、資料を検討の上、何れかの段階で取捨選択を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本来は、海外書店より直接に購入した欧文研究書の支払いに充てる予定であったが、支払関係書類の処理が複雑で時間的に間に合わず、結局その分は自費で負担し、残額は繰り越して翌年度の新規購入分に使用することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
上欄に記したとおり、本研究遂行のための物品費(研究書、資料複製・整理用備品等)として使用する予定である。
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