研究課題/領域番号 |
16K16984
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
板垣 勝彦 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (50451761)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 住宅法 / 住生活基本法 / 住生活基本計画 / 指定確認検査機関 / 耐震偽装問題 / 景観 / 公営住宅 / 災害公営住宅 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究代表者がこれまでに公表した「住宅市場における行政法規制」に関するテーマの論文を1つにまとめた書物である『住宅市場と行政法―耐震偽装、まちづくり、住宅セーフティネットと法―』(第一法規、定価4,500円(税抜))を刊行した。この本は、Ⅰ総論、Ⅱ耐震偽装と行政法、Ⅲまちづくりと行政法、Ⅳ住宅セーフティネットと行政法の4つから構成される。住宅は人間の生存にとって不可欠な財であるだけではなく、その市場は複合的な産業が絡まりあった巨大市場としてダイナミックに展開されており、住宅・住宅市場と行政のかかわりについて検討すべき法律問題は無数にある。わが国における住宅法(および隣接する建築法、都市法、環境法、社会法、防災法)の研究は、その市場が経済全体において占める重みと比べて、いまだ十分であるとは言い難い。私法学における借地借家法制の実例研究が精緻に発達しているのと比較しても、公法学からのアプローチは少ない。この本では、Ⅰ総論において、①住宅市場における行政法の役割、②住生活基本法と住生活基本計画を素材にした「基本法と基本計画」の意義を考察した。Ⅱ耐震偽装と行政法においては、耐震偽装問題を契機に注目された③指定確認検査機関の検査の過誤と国家賠償責任の主体の問題、④一級建築士の免許取消と行政手続の問題、⑤構造計算書の偽装問題を扱った。Ⅲまちづくりと行政法においては、⑥景観問題とマンション建設の民事差止めの問題、⑦景観問題と行政訴訟の原告適格の問題、⑧自治体がマンション建設の阻止に動く際の問題、⑨「違法性の承継」の問題を扱った。Ⅳ住宅セーフティネットと行政法においては、⑩公営住宅法の課題、⑪災害時における避難所、仮設住宅、災害公営住宅という居住支援の問題を扱った。これらは、いずれも、これまで十分に意識されてこなかった公法的な住宅法の先駆的な業績であり、極めて重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
住宅法に関する業績を1つにまとめることは、当初の予定では研究計画の最終年度に達成する予定であった。ところが、研究の進捗が当初の予想を上回ったことと、これまでの研究の蓄積が十分であったこと、出版社の事情として、平成28年度中(平成29年2月)に刊行したいという事情があったことから、とんとん拍子に刊行に漕ぎつけた次第である。このことは、研究が「当初の計画以上に進展している」と評価する以外にないと思われる。むろん、研究代表者の住宅法に関する研究がこれで終わるわけでは決してなく、今後は、①現在喫緊の課題となっている空き家問題、②各自治体で取組みが始まりつつある「ごみ屋敷」の問題、③現在は国家戦略特区で行われているが、東京五輪に向けて一般的な規制緩和が進みつつある民泊の法的問題、④住宅セーフティネットについて、サービス付き高齢者向け住宅の問題、⑤海外の住宅事情とわが国の住宅事情の比較、⑥住宅法を超えた「市場を通じた行政法規制の問題」について積極的に取り組むこととする。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に『住宅市場と行政法』を刊行したことで、研究代表者の住宅法に関する研究は大きな節目を迎えた。しかし、研究機関はまだ2年間残っている。当初の予定よりも研究は順調に進捗しているので、『住宅市場と行政法』から明らかになった新たな課題に進むこととしたい。具体的には、①現在喫緊の課題となっている空き家問題への法的・実務的対応、②各自治体で次第に取組みが始まりつつある「ごみ屋敷」の問題、③現在は国家戦略特区で行われているが、東京五輪に向けて一般的な規制緩和が進みつつある民泊の法的問題、④住宅セーフティネットについて、サービス付き高齢者向け住宅の問題に取り組むこととする。平成28年度に行う予定であった海外調査が実施できなかったので、⑤海外の住宅事情とわが国の住宅事情の比較、⑥住宅法を超えた「市場を通じた行政法規制の問題」についても、今後は積極的に取り組むこととしたい。⑥については、ドイツ法を中心とした海外の文献を渉猟して思索を深めるほか、国内における先進事例を見学したり、シンポジウムや研究会に積極的に参加して知見を獲得するように努めることとしたい。『住宅市場と行政法』のように単著の中で住宅法に関する研究をまとめて公刊するほどのことはなくとも、住宅法に関する論文や判例評釈、実務解説記事の執筆・公表を積み重ねることを、今後の研究の目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に購入する予定であった書籍のうち、発行が平成29年度に延びたものがいくつかあったため、50,000円弱の繰り越しが生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に発行予定であったが、平成29年度に発行されることになった書籍の購入代金に充てる。
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