この3年間で科研費を非常に有効に活用し、多くの研究成果を公表することができた。特筆すべきは、平成29年に刊行した『住宅市場と行政法―耐震偽装、まちづくり、住宅セーフティネットと法―』は、住生活基本法(基本計画)、耐震偽装事件と行政手続・行政による情報提供、指定確認検査機関と国家賠償の問題、景観紛争とまちづくりにかかわる民事訴訟と行政訴訟の役割分担、建築確認と安全認定の関係、公営住宅法システム、災害時の住まい(避難所-仮設住宅-災害公営住宅)の法的仕組みといった極めて現代的な課題を包括的にまとめた著作であり、都市住宅学会の著作賞を受賞するなど、すでに極めて高い評価を受けている。 本研究の成果はそればかりでなく、空き家、ごみ屋敷、さらには管理放棄地(所有者不明不動産)など「管理不全不動産」と総称される問題にも及んだ。『「ごみ屋敷条例」に学ぶ条例づくり教室』では、実効性のある条例づくりについて解説することで、市町村の現場の職員に対する政策法務の指針を示した。 市場システムを活用した行政法規制についても、関心は広がっている。「民泊」については、旅館業法の法的規制を緩和して、インバウンド需要に応える魅力的な施策であるが、市町村によっては既存住民の居住環境を侵害しかねないとして拒絶する向きがある。「民泊推進条例の提案」では、近隣の迷惑になる行為を取り締まるとともに、イベント民泊や農家民宿のような「お試し」の仕組みを積極活用していく建設的な提案を行った。 これらは人口減少社会に突入した令和の時代のわが国における喫緊の課題に対する示唆にあふれており、新たに4年間の研究期間で採択された「市町村における市場を活用した住宅法システムの研究」を通じて、さらに考察を深めることとする。
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