本研究では、貨幣を基礎とした財政憲法の理論的・制度的考察を目指したものである。期間最終年度にあたる本年度では、①租税に次ぐ歳入源である公債金収入をもたらす公債発行の憲法的規律に関して、わが国の制度では、毎年度の公債発行が予算の国会議決により認められる制度となっていること、②それを統制する仕組みとしての財政運営ルールの基本的な構造、③貨幣を用いた統治を評価する観点のひとつである効率性がわが国の法制度においてどのように表れているか、④貨幣を基軸として財政法を体系的に構築することの試みの意義や課題、⑤公共放送の維持という公的任務が受信料という特殊な財源によって維持されていることの法的意義等をそれぞれ明らかにし、論文(3編)や学会(2回)を通じて公表した。また、これまでの研究成果を踏まえて、藤谷武史准教授(東京大学)、上田健介教授(近畿大学)らと研究会を実施して意見交換をおこなったほか、滞日中のクリスチァン・ヴァルトホフ教授(ベルリン・フンボルト大学)を招いて講演会を実施したほか、境家史郎教授(首都大学東京)を招いて研究会を開催した。さらに昨年度実施できなかったドイツへの資料調査を実施した。以上の結果、比較法研究の成果が確認されるとともに、研究課題をさらに発展させる手掛りが得られた。 研究期間全体では、必ずしも順調に進捗したとはいえない側面もあったが、最終的には海外調査、海外研究者との交流も含め、予定されていたプログラムは全て実施できた。成果の点では、貨幣が憲法・財政法にとって持つ意味について分析を深めると同時に、貨幣理解を踏まえつつ従来の解釈論の再検討ができたほか、公債発行制度、NHK受信料などの具体的な制度を素材に具体的な制度との関係で考察することができた。また、国庫を通じた資金の流れをマクロ的に把握・統制する法的システムの考察が必要となるという今後の研究課題も発見できた。
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