研究課題/領域番号 |
16K16990
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
岩切 大地 立正大学, 法学部, 教授 (00553091)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 違憲審査 / 司法権 / 憲法的対話 / 司法的救済 |
研究実績の概要 |
本研究「違憲審査制の憲法的対話理論による基礎付けに関する研究」は、違憲審査権と政治プロセスとの関係について新たな見方を提示しようとするものである。その際のキーワードとなるのが憲法的対話という考え方であり、イギリスにおける議論状況と判例動向をもとにして研究が進められている。 ただし、政治部門と司法部門との協働によって憲法的価値が実現されると考えるいわゆる憲法的対話理論は、ともすれば憲法解釈という主に法原理的な機能を政治的ないし党派的な要請に妥協させようとする考え方とも受け取られかねない。政治プロセスの決定に対して憲法が実体法的な規律を行うべきであるという前提を維持する必要があろう。 そこで、本研究では憲法的対話論が憲法的価値の実現のためのプロセスを指すというよりもむしろ、統治構造のあり方に関する議論であるという仮説を、イギリス憲法との比較研究を通して提示した(2016年日本公法学会公募セッション報告、公法研究79号予定)。これによれば、憲法的対話とはむしろ裁判所が憲法裁判において法解釈を行うこと以外に行使することができる権限が存在することを意味する。すなわち、純粋な司法権の行使として法解釈を行うにとどまらず、その判断を実施するために必要な救済内容を裁量的に自ら作ることのできる権限である。 今後の研究としては、再度イギリスにおける議論・判例を分析することで上記にいう法解釈の性質を詳細に検討した上で、日本における「多様な違憲審査手法」の議論に寄与できればと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、本研究1年目にイギリスにおける憲法的対話理論に関する議論状況の分析を行うこととしていたが、これは計画通りに行った。ただし当初の研究計画においてはイギリスのほかオーストラリアやニュージーランドといったコモンウェルス諸国(特にオーストラリアのモムシロビッチ判決)の分析を行うことも予定していたところ、これについてはまだ行えていない。もっともイギリスにおける議論それ自体の中にカナダをはじめとするコモンウェルス諸国を射程に入れた議論が数多くみられるのみならず、理論的な視座はすでに獲得できたので、これら作業は周辺的なものとはなるが、2年目に実施したい。 また当初の研究計画の2年目には予定していなかった課題が、1年目の研究を通して明らかとなった。法解釈における「憲法的対話」性(法の意味を宣明するにとどまらない積極的・創造的な憲法救済的な側面)という問題が生じているため、2年目をこの研究のために当てたい。 とはいえ、2年間の研究を通して、結果としては当初予定していた通り、日本における多様な違憲審査手法についての視点を得ることにつながるものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は2か年計画である。当初計画では、2年目はもっぱら日本の判例分析のために当てる予定であったが、新たな課題が1年目の研究を通して明らかとなった。すなわち、司法権による法解釈における「憲法的対話」性(法の意味を宣明するにとどまらない積極的・創造的な憲法救済的な側面)という問題である。 具体的にはイギリス1998年人権法3条に基づく適合解釈という司法の判断手法について、その性質(純粋に法解釈であり司法権の一内容と捉えるべきか、あるいは憲法的救済を含み司法権を超えた裁判所による積極的な行為として捉えるべきか)という問題だる。やはりイギリスを題材としつつ、判例や議論の分析を通して研究を続ける予定である。
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