第1年目である2016年度には、イギリス憲法において最近言われている「憲法的対話」について研究し、学会発表した。最終年度である2017年度は、そこで行った議論の理論的な根拠を探る作業を行った。その研究成果については、さらなる吟味を経た上で、今後に発表されることになる。 第1年目の研究内容について、2年後の視座から再叙述するとするならば、「憲法的対話」という言葉の意味を探るというよりは、むしろその言葉で示されている現象の背景をもとに、裁判所が憲法の枠組みの中でどのような機能を果たしていることに関する議論なのかについて検討するというものであった。そして、通常イメージされるような「法原理機関」としての機能に加えて、救済的措置の固有の実施者として、いわば「統治機関」としての機能に着目させるのがこの言葉の機能であるという結論に至った。 第2年目の研究は、その理論的な基礎を得るという作業に充てられた。その基礎を提供する候補として目したものの一つが、いわゆる「政治法」の理論群である。いわばLSE学派とも呼ぶべき、20世紀を通じて対抗学派として精彩を放った研究伝統の後継であるこれら理論群は、公法の基礎理論として道徳価値基底的というよりはプラグマティックな議論を展開している。このような理論群の観点から、憲法構造全体の中で裁判所に割り振られる役割として「対話」すなわち憲法裁定の実施責任主体というものがあると説明しつつ、かつその限界をも明示できないかを検討中である。 換言すれば、最終年度の研究は、新たな課題の発見ができたという意味で大きな成果を得ることができたが、その発表に関しては今後に期したい。 なお、司法権のミクロな機能に関して刑事学との学際研究、憲法的統治構造枠組みに関するものとして解散権に関する研究も関連して行い、発表した。
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