研究課題/領域番号 |
16K17003
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
島村 暁代 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (30507801)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 公的年金 / 企業年金 / 個人年金 |
研究実績の概要 |
本研究は、公的年金に上積みして引退後の労働者等の所得保障を図る任意加入の年金制度(具体的には企業年金と個人年金)について、海外の法制と比較しつつ、日本の制度の問題点と立直しの方向性を検討するものである。具体的には、企業年金法制と個人年金法制とを2本の柱として整備するブラジルと、中所得者のみならず低所得者にも個人年金が普及するように制度改革を行ったチリとを比較対象国に据え、比較法的な観点から日本の直面する問題に対する示唆を得ることを目指している。 研究の初年度である2016(平成28年)度はブラジルでの在外研究の機会を得たので、ブラジルの公的年金制度にあたる狭義の社会保障制度と補足的保障制度を中心的に検討した。狭義の社会保障制度に関しては、2016年10月に下された年金の放棄に関する連邦最高裁判決や2016年12月にテーメル大統領が提示した改革案の内容を検討した。また、補足的保障制度については、ブラジルでは、企業や職域団体のメンバーだけを対象とする閉鎖的保障制度と誰でも加入できる開放的保障制度が両立するところ、歴史的にみれば、1970年代、80年代にかけては確定給付型のプランを提供する閉鎖的保障制度が中心であったが、最近は確定拠出型のプランを提供し、柔軟な設計が可能な開放的保障制度が急速に伸びていることがわかった。また、検討課題となっていた税法上の優遇内容についても検討することができたので、今後は、その成果をまとめていきたい。 さらに、わが国の社会保障法制や労働法制について、サンパウロ大学の大学院にて講義をしたり、学会やシンポジウムで報告する機会を得たので、外国人研究者と交流を深めることができた。 また、個人積立勘定方式の年金制度を採用するチリにも訪問し、年金監督官庁等でヒアリングを実施できた。低年金の問題が顕著で改革案に向けた議論がされるようなので、今後も注視したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブラジルには長期的に、チリにも短期的に訪問して、調査をすることができた。行政機関や研究者等のヒアリングをできたので、おおむね順調に計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
ブラジルの制度について検討する中で、①補足的保障制度に関する契約が、労働契約とは別個の契約と位置付けられていること、②国による資金援助が憲法で禁止されていることが明らかになったので、その背景を探るとともに、閉鎖的補足保障制度と開放的補足保障制度の相互間の関係性や役割分担についても詰めて検討していきたい。チリについては、任意加入の制度に補助金を投入することの正当化根拠を解明していきたい。そして、ブラジルもチリも年金制度に関する改革が現在、議論されているので、改正の動向を追い、これまでの制度との関係でどのような意味があるかを研究していきたい。平成29年度は、初年度に収集した情報をもとに考察の範囲を広げ、成果としてまとめるとともに、まだ足りていない点についても検討していきたい。外国法に関する調査研究の結果を踏まえて、日本の法制度に対していかなる示唆を導き出すことができるか、考察を深めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究費に関して、若干の次年度使用額が生じたのは、年度末に購入を予定していた書籍の出版・流通が、次年度初頭にずれ込んだことに伴うものである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度請求額と合わせて、出版時期のずれ込んだ書籍の購入にかかる経費として使用する。
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