研究課題/領域番号 |
16K17004
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
本庄 淳志 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (90580978)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 労働者派遣 / 業務処理請負 / 労働者性 / インディペンデント・コントラクター / ドイツ労働法 / オランダ労働法 / 兼業 / 副業 |
研究実績の概要 |
2017年度には,前年度に引き続き,研究対象国であるドイツおよびオランダにおける,派遣労働者や業務処理請負といった企業外部の労働者の活用に関わる諸規制,および人事管理上の実態や課題,さらにはEUレベルでの,(雇用)労働者に限らない外部労働力の活用のあり方をめぐる議論を鳥瞰した。 日本と同様,オランダやドイツという本研究の比較対象国においても,外部労働力の活用は量的にも質的にも拡大する傾向にあるが,このうち派遣労働の活用をめぐっては,両国ともに労働者派遣法による特別な規制が設けられている。そこでは,国毎にさまざまな例外の余地を残しつつも,基本的な方向として,派遣労働者の処遇面では派遣先で直接雇用される同種の労働者との均衡を図るという姿勢が窺える。 しかし同時に,とりわけオランダでは,近年の労働法の大幅な改革のなかでも,なお,派遣元が派遣労働者の処遇改善に実質的に関わり得るケースを念頭に,均衡処遇に対する例外が広範囲に認められていることも再確認された。さらに,前者の処遇の均衡については,契約上の条件面で結果として処遇の均衡化を図るという視点とは別に,法制度の面でも諸制度のバランスの見直しが図られており,たとえば有期雇用と無期雇用,パートとフルタイム,そして直用労働者と派遣労働者とで法制度面での処遇格差が生じないよう工夫がされていること,制度の見直しに際しては,単に規制の強化を目指すというわけでなく,バランスの見直しの結果,従来の労働法上の諸規制の規制緩和としての側面もあることが明らかとなった。 このような分析結果については,再精査のうえで,2018年の夏頃に各研究会等で報告したうえで,専門誌または所属大学の紀要において公刊することを予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示した通り,本研究は概ね順調に進展している。 2016年度および2017年度には,まずは研究遂行の核となる情報を広く収集することを目的として,文献調査を中心に研究を進めてきた。具体的には,オランダで1945年以来ながらく堅持されてきた解雇規制(その特徴については,本庄淳志『労働市場における労働者派遣法の現代的役割』(弘文堂,2016年)も参照)が大幅に改正されたことを受けて(2014年の「就労と保障に関する法律(WWZ)」),同改正の内容や実務上のインパクトを分析した。さらに,雇用喪失時の「移行手当(transitievergoeding)」が制度化されていることをはじめ,とりわけ使用者の側に何らかの帰責性があるケースで,有期雇用の雇止めや労働者側からの退職のケースも含めた諸規制のバランスが図られていることに着目した。 また,こうしたオランダ法の分析と平行して,(政権基盤が揺らぐなかで)現在進行中であるドイツでの立法改正およびその影響の分析を進めている。 こうした外国法研究と同時に,日本の法制度にかかる今後の分析を深める前提作業として,日本における労働者性をめぐる従来の議論を鳥瞰し,その成果を,本庄淳志「労働法が対象とする「労働者」概念(文献研究労働法学第20回)」季刊労働法255号(2016年)として公刊している。また,必ずしも外部労働力というわけではないが,内部労働市場における長期的な育成を前提としない有期雇用の雇止めをめぐる問題について,本庄淳志「有期雇用が反復継続したなかでの更新上限の設定と雇止め:シャノアール事件」季刊労働法253号(2016年)を公刊している。
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今後の研究の推進方策 |
現在,経済産業省や厚生労働省では,働き方の多様化をふまえ,狭義の(雇用)労働者とならび,いわゆるインディペンデント・コントラクターのような働き方に対する規制のあり方が議論の俎上に上りつつある。こうした動きは,AI,ICT,IOT,クラウドソーシングを典型とした技術革新等を背景に,国内外での「働き方」をとりまく大きな環境変化を見据えたものであり,日本でも,副業の拡大とあわせて急速に関心が高まりつつある。 こうした新たな就労形態をめぐっては,従来,必ずしも実態が明らかでなかったが,今後はさまざまな資料が公表されることが予想されるなか,本研究では,引き続き,こうした国内外の最新動向に引き続き目を配りつつ,諸外国での法規制の展開や議論動向をふまえ,日本の状況に適した法政策のあり方を展望する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本研究では,企業外部の労働力の活用に関わる海外の法制度の分析・検討が中核となっているが,このうち,計画当初に検討対象としたオランダ法,ドイツ法ともに法改正の動きがあるなかで,同テーマをめぐる文献の出版状況も法改正のタイミングとあわせたものとなっている。そこで,法改正後の最新動向をフォローする目的で,文献収集の一部については2018年度に行うことにした。次年度使用額が生じたのは,主として文献の購入を先送りしたことによる。
(使用計画) 2018年度には,法改正に伴って,本研究の比較対象国において各基本書の改訂が見込まれている。そこで,次年度使用額として,前年度から先送りになっていたこうした文献購入の費用として使用する予定である。 また,日本でも,現在の法改正の動向について情報を得ること,さらには研究成果の発表を目的として,当初計画よりも国内での出張が増える見込みであり,その費用に充てる可能性もある。
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