本研究では,まずは研究遂行の核となる情報を広く収集することを目的として,文献調査を中心に研究を進めてきた。たとえば,オランダで1945年以来ながらく堅持されてきた解雇規制が近年では立て続けに改正されているが,本研究ではこれらの改正の内容やその後の実務上のインパクトを分析した。さらに,雇用喪失時の「移行手当(transitievergoeding)」が制度化されていることや,特に使用者の側に何らかの帰責性があるケースで,有期雇用の雇止めや労働者側からの退職のケースも含めた諸規制のバランスを図ることに重点が置かれていることに着目した。それと同時に,オランダにおける職業紹介システムの全体像を明らかにした。 こうした外国法研究と同時に,本研究では,日本の法制度にかかる今後の分析を深める前提作業として,日本における労働者性をめぐる従来の議論を鳥瞰した。また,外部労働力から内部労働力への転換を直接図るものとして,派遣法における直接雇用申込みみなし規制の位置づけなどを検討した。 本研究の遂行期間内では,イギリスのEU離脱問題の長期・混迷化や比較対象国の国内選挙における与党の大敗などが続くなかで,研究対象分野にかかる立法改正も停滞した状況にあった。一方,特に,雇用のアウトソース化の影響をもっとも受けている人材サービス分野における人事管理のあり方は,ビッグデータやAIの活用などを含め著しい速度で進化しており,程度の差はあれ,旧来の法制度と実務との乖離が大きくなっている点に共通の課題がみらること,一方,とりわけ日本においては,1999年以来の大きな規制緩和を経てもなお行政による裁量に委ねる面が大きく,私法的な面では現代的な課題に十分に対応ができる仕組みとなっていないことが明らかとなった。
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