研究課題/領域番号 |
16K17007
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
高橋 有紀 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (00732471)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 更生保護 / 更生保護施設 / 地域社会 |
研究実績の概要 |
平成30年度は国内での聞取り調査及び、研究成果の公表を中心に研究を進めた。 聞き取り調査では、文献調査を通して関心を持った、自立準備ホームや更生保護施設、薬物依存症者の回復支援施設等の建設への反対運動について検討するため、法務省保護局、京都保護観察所及び、京都市内の更生保護施設を訪問した。また、本研究の初年度より検討を加えている福島自立更生促進センターと地域との関係に関する考察を深める目的で、同じく国立の更生保護施設である茨城就業支援センターにおいても聞き取り調査を行った。 研究成果の公表については、第1に、平成30年10月の日本犯罪社会学会においてテーマセッション「更生保護における『地域』とはどこか」を主宰した。同セッションでは、更生保護の分野で長く用いられてきた「地域の支え」や「保護司の地域性」といった言葉の内実や、それらが強調されるにもかかわらず必ずしも多くの市民が更生保護に理解を示すわけではない現状について、申請者と社会学、社会福祉学等の研究者がそれぞれの立場から考察し議論した。第2に、福島自立更生促進センターについて、特に同センターに対して市民が「チェックと助言」をする「運営連絡会議」に注目し、学会誌『更生保護研究』に論文を投稿し、査読を経て研究ノートとして掲載された。 また、上記の聞取り調査、学会発表と並行して、更生保護施設の現状や薬物依存症者や精神障害者らの地域生活支援、「地方公共団体の責務」を明記した再犯防止推進計画等、刑務所出所者その他の複雑な事情を抱える者が地域で生きていくことの意義や課題について、国内外の文献調査や各種の学会、シンポジウム、研究会等への参加を通じて考察を深めた。なお、平成31年1月には、再犯防止推進計画に関連し、福島県の再犯防止推進計画策定にかかる検討会にて、本研究で得た知見を基に講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のとおり、平成30年度には聞取り調査や文献調査を通した知見の蓄積に加え、学会発表や論文執筆、自治体での講演等を通して、研究成果の公表や社会への還元をすることができた。また、学会発表の準備の過程での他の報告者との議論や、学会発表の聴講者、投稿論文の査読者等からの助言を通して、本研究の問題意識や課題が明確化された。さらに、聞取り調査においても、茨城就業支援センターの開設過程や現在の地域との関係、京都における種々の施設コンフリクトの背景等、平成29年度までの研究を通して関心を持つに至った点について考察を深めるとともに、今後の本研究の課題を見出すことができた。これらはいずれも、研究最終年度である平成31年度に繋がる有意義なものであったと考える。 なお、平成30年度は聞取り調査、文献調査ともに国内のものが中心となり、諸外国の状況を十分に調査、検討することができなかった。この点は、研究最終年度である平成31年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は本研究の最終年度であることから、研究成果のまとめと公表に重点を置いて研究を進めるとともに、次年度以降に本研究の知見をどう展開させるかについて検討、考察を行う。研究成果の公表に関連し、本研究で得た知見を発表する目的で、現在、国内の2つの学会にテーマセッションの申込みをしているほか、学内紀要に論文投稿のエントリーをしている。そのため、これらを通して本研究の成果を広く公表できるよう平成31年度の早い段階から、これまでの聞取り調査や文献調査で得た知見や課題の整理、考察といった準備を進める。また、これらの学会発表や論文執筆を通して得た知見も踏まえた本研究全体の成果を振り返る趣旨で、平成31年度中に論文を執筆し公表する。 さらに、本研究を次年度以降により有意義な形で展開することを目標に、平成30年度までの研究を通して関心を持つに至った、地域の更生保護の核としての更生保護施設の機能や、再犯防止推進計画と地域の矯正・更生保護制度の担い手の関係等について、国内外の文献調査や聞取り調査を行う。とりわけ、地域の更生保護施設が再犯防止推進計画の中心的な役割を果たしているとされる埼玉県については、上記の学会発表や論文執筆にも有意義な知見が得られると考えられることから、平成31年度の早期に調査を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31年度に発表を予定している複数の国内学会でのテーマセッションにおいて、それらの学会の非会員に登壇を依頼する予定であり、それらの者の旅費、大会参加費について申請者が負担する必要が生じることが予想される。さらに、それらのテーマセッションの準備の過程で打ち合わせのための遠方への出張も予想されることから、当初の予定よりも旅費が増大する可能性にかんがみ、平成30年度の直接経費の一部を平成31年度に繰り越すこととした。
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