2019年度は、本研究の成果をまとめ論文や学会発表を通じて公表することを中心に研究を実施した。 本研究の着想の契機となった、自立更生促進センターと地域社会の関係については、これまでの研究を踏まえ、2019年8月の日本司法福祉学会のテーマセッション「自立更生促進センターの処遇とソーシャルワーク」にて、同センターに勤務する保護観察官には、入所者を処遇する能力に加え、地域の理解を得ることや地域資源を開拓することなど「ソーシャル・アクション」の能力が重要であると指摘した。「反対運動」を乗り越えるにとどまらず、立ち直りを支える地域をつくることを視野に入れた保護観察官の役割について、刑事政策学と社会福祉学の視点を踏まえて論じた点は、これらの分野において新規性のあるものであったと考える。 また、地域で立ち直りを支えることの意義を社会に周知することに関連し、2019年度は「説明責任」や「効果測定」に関する議論を踏まえた研究を行い、その成果を発表した。2019年10月の日本犯罪社会学会テーマセッション「犯罪者処遇における「市民参加」の現代的諸相」では、福島自立更生促進センター運営連絡会議や刑事施設視察委員会といった、犯罪者処遇に関する「第三者委員会」の意義と課題を検討した。また、2019年12月の日本更生保護学会のシンポジウム「更生保護の成果をどう測るか」では、社会の多数派の理解を得やすい「成果」を強調することが、更生保護の本来の意義を捨象し、犯罪をした者等に不利益を与えかねないことを指摘した。「説明責任」や「効果測定」のいたずらな追求が却って不合理な結果を招くことは、他の行政分野や対人援助分野でも指摘されており、更生保護制度と地域社会の関係にも同様の問題が見られることを論じた点は、今後、更生保護分野はもとより、行政活動や対人援助一般にも有意義な示唆を与えると考える。
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