研究課題/領域番号 |
16K17010
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研究機関 | 大阪経済法科大学 |
研究代表者 |
岩崎 正 大阪経済法科大学, 法学部, 准教授 (90757915)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 刑事手続打切り / 訴訟手続濫用法理 / 訴訟能力 / 最判平成28年12月19日 / 証拠の喪失・廃棄 / 公訴権濫用論 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、前年度に引き続き、コモンウェルス諸国において発展した判例法理である「訴訟手続濫用(Abuse of Process)の法理」についての基本的な検討枠組みに関する分析を行った。そのため、前年度から収集している資料・情報を丁寧に読み込んでいった。 その過程で、わが国の刑事手続打切り論との関連を整理する必要があったため、前提となるわが国の現状と今後の議論のあり方を整理しておくべきと考え、とくにわが国の刑事手続打切り論の発展に大きく寄与した公訴権濫用論および非典型的訴訟条件論の抱える問題点を改めて整理・分析した。そして、それを示すべく、論稿「刑事手続打切り論の現在-井戸田侃博士の「公訴権濫用論」をもとに」を公表した。 さらに、そこで明らかとなったことの一つに、最新の刑事手続き打切りに関する最高裁判例が示した新たな判断枠組みの重要性が挙げられる。同判例は、前年度より、それに関する資料を収集し、分析を開始していたが、その結果を「被告人に訴訟能力がなくその回復の見込みがない場合に刑訴法338条4号を準用して公訴棄却判決により手続を打切ることを認めた事例[最判平成28年12月19日刑集70巻8号865頁]」として公表した。 また、ほぼ毎月開催される「刑事訴訟法研究会」に参加し、知見を深めるとともに、そこで報告されたテーマのうち、「米国における証拠の廃棄・喪失」について、同様の問題がイギリスでは訴訟手続濫用法理のもと処理されていることなどについて意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の目標は、研究初年度から収集している資料・情報等をもとにして、「訴訟手続濫用の法理」についての理論的な枠組みを整理し、同法理の実質的な根拠を明らかにしてゆくことと、同時に、刑事手続打切りに関する重要判例である最判平成28年12月19日刑集70巻8号865頁を分析し公表することであった。後者については、その分析が一定の水準に到達し判例評釈として公表できたことから、順調に研究が進んだといえよう。ただし、前者については、収集している資料等を分析することがやや遅れている。その原因は、所属研究機関における他の業務が予想を超えた量であったことに加え、所属研究機関の図書システムの更新等によって、研究資料が研究代表者の手元に届くまで数カ月かかるなど、想定以上に研究環境の整備が遅れたことである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の完成年度となる平成30年度は、「訴訟手続濫用の法理」についての理論的な枠組みを整理し、同法理の実質的な根拠を明らかにしてゆくことが最終目的である。そのため、これまでの研究期間で明らかとなった同法理の適用基準が近時の裁判例等でどのように活用されているかを明らかにし、論文として作成・公表したい。 これに加え、これまで明らかになった同法理の理念等が、私見である刑事手続の目的を軸とした刑事手続打切り論とどのような関係に立つのかを、研究報告等を通じて洗練させ、新時代の刑事司法における新たな「刑事手続打切り論」を構築したい。 前年度も課題としていたことではあるが、これらの研究を円滑に遂行するためにも、引き続き研究環境の整備が不可欠であり、所属研究機関の積極的な協力を期待したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、研究に使用する判例データベースの契約につき、見積り等の手続に時間がかかり、年度内に契約できなかったためであるが、平成30年度に契約する見込みであり、未使用額はその料金の一部に充てることとしたい。
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