被害者の同意に基づく傷害行為の処罰範囲につき,近時のドイツの判例上,集団間の乱闘にかかる事案の扱いをめぐって,重要な展開が見られる。本研究の当初の計画では,同意傷害を直接の課題としていたわけではないが,被害者の同意をめぐる典型的重要論点として本研究課題に大いに関係し,かつ,集団乱闘を素材とした議論は日本にはこれまであまり見られないように思われたので,本年度は,主に,同意傷害の可罰性に関する近時のドイツ判例とこれに対する学説の議論状況を整理・検討することとした。 従前のドイツ判例では,死の具体的危険が生じた場合の同意は正当化の効果を有しないとされてきたが,近時のドイツ判例によれば,そうした場合でなくても,集団乱闘という傷害の方法・態様の点から,事象の制御不可能性あるいはドイツ刑法231条(喧嘩闘争への関与)を理由として,同意の正当化効果は否定される。したがって,従前の判例との関係でいえば,近時のドイツ判例は,同意傷害の処罰範囲を拡張する新たな判断を示したことになる。これに対する学説の反応は,批判的なものがかなり多い。 判例は,こうした同意傷害の処罰根拠についてかなり詳細に説明している。刑法231条を根拠とする点のほかにも,スポーツ上の傷害行為やルールの有無と傷害の可罰性にかかわる判示など,注目されるべき点が多々見られる。そこで,研究会で報告の機会を得て,こうした近時のドイツ判例を素材として,判例の新たな展開とそれに対する学説の議論状況を紹介・検討した。その成果は論文として公表予定である。
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