研究課題/領域番号 |
16K17012
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
佐川 友佳子 香川大学, 法学部, 准教授 (10555353)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 汚職 / 贈収賄 / 国際 |
研究実績の概要 |
前年度までの研究で得られた、イギリスやアメリカの汚職規制の状況とを比較する意味で、今年度は、ヨーロッパの状況(特にドイツ)と、近時、汚職が社会的な問題となっているアジアの状況を検討することとし、研究者を招聘して、汚職をテーマとした講演会、シンポ等を開催することとした。 近時、汚職に関して厳格な立法を制定した韓国からは、韓国・Cheongju UniversityのCho Byung-Sun教授を招聘し、これまでの韓国における汚職規制の概要と構造、新法の影響などにつき、様々な観点からご講演いただいた。 また、ドイツから、フンボルト大学(ベルリン)のLuis Greco教授を招聘し、「汚職」として規制される領域が拡大する中で、汚職本来の意義をどのように捉えるべきか、汚職構造そのものに遡った観点から講演いただいた。また、Greco教授と中国・上海社会科学院のWei Changdong教授との共同シンポジウムを広島大学の吉中教授にご尽力賜り開催し、立命館大学のムスラキス教授にもコメンテーターとしてご参加いただき、今後の汚職規制がどうあるべきかについて議論した。さらに、ドイツ・ライプツィヒ大学講師のLiane Woerner氏も招聘し、彼女からはEUとの関係で汚職をどのように規制していくべきかにつき、手続上の問題、訴訟法的課題等を中心に講演いただいた。 こうした比較法的視点からは、汚職(特に商業取引における贈収賄)に対する各国の規制レベルが上がってはいるものの、従来の国内法における典型的な汚職事案とは異なる政策的理由に基づく立法的措置を急ぐあまりに理論的基盤が脆弱であることが明らかとなった。また、政策的にもその実効性に疑問が呈されるような事案が多々あることも指摘されうる。これらにより、次年度に向けた議論に寄与する素材が多数得らた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外国研究者を3名招聘し、多くの議論を経たことで、比較法的にも汚職に関する議論をより一層深めて検討することが可能となった。韓国における汚職をめぐる近時の立法状況は刑事政策的に興味深く、単純な刑事規制の限界を示す上で非常に参考となるものであった。また、ドイツの近時の法改正を巡る状況については、ここ数年でかなり状況が変化しているために、最新の議論状況を知ることができたことは大きな収穫であった。特に、汚職構造そのものに対する問題意識を基盤として、他罪との関係を考慮しつつ体系的に汚職問題を捉えようとする視点は、日本の法解釈にとっても非常に参考となるものであった。また、EU圏内での汚職に対する規制の状況についても、その理念と現実の乖離、手続上の困難性などにつき、被招聘者と率直な意見交換ができたことは、文献からは得られない情報であって、今後の研究にとって大いに寄与するものであった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られた様々ま国の状況を比較検討し、日本は規制を今後どのように展開させていくべきかについての方向性を明らかにする。 特に、単純な刑事規制によって生じている様々な問題、例えば、実効性を欠いた象徴的な規制に留まるようなもの、あるいは、経済発展にとってむしろ阻害要因となるような立法を回避するためにはどのような規制が望ましいのかについて明らかにし、各国におけるそれぞれの法の調整や、司法共助等の手続的な協力体制の構築についても一定の方向性を示す。同時に、日本の外国公務員に対する贈賄等の汚職対策の現状を確認しつつ(特に、不正競争防止法やその指針、また警察・検察等の実務の対応)、その対策と今後の課題を検証し、最終的には、諸外国の研究成果も踏まえて、日本、そして世界においてどのような汚職に対する規制が望ましいのかを示し、各国におけるそれぞれの法の調整や、司法共助等の手続的な協力体制の構築についても一定の方向性を示す。この点については、EU圏等における研究を参考にする予定である。
|