外国公務員に対する汚職に対する法的規制として最も重要な、アメリカの海外腐敗行為防止法(FCPA)について検討するため、アメリカで弁護士経験のあるドイツの検察官Maria von Tippelkirch氏を招聘し、アメリカにおける実務の現状とその課題について、現在居住するドイツとの相違にも注目しながらご講演いただいた。 この法律は、かなり広範な適用が認められることから、世界の巨大企業、また日本の著名企業に関する適用事例があり、数百億ドルの罰金が認められた事案もある。したがって、多くの企業にとって取引に際してリスクとなりうることから、この法の適用範囲や解釈の問題は大きな関心事となっているが、手続き上、裁判外での手続終結が広く認められていることから、対象となる企業は敗訴のリスク等を考え、司法省等との合意によって早期の解決に至るケースが非常に多い。 こうした方法には、手続きの迅速化等の点でメリットはあるものの、他方では、裁判所による判断を経ていない、という点から、解釈の統一性等、様々な問題も指摘されている。また、こうして多額の罰金が認められ、またその対応のためにデュー・デリジェンス調査やコンプライアンスのための対応が求められている実務の状況は、当事者である企業や企業の責任者にとって多くのコストを払わざるを得ないものとなっているが、FCPAによる訴追は増加傾向にある。 このように企業に大きなコストを課す実務の状況に対して、司法統制が現実的には機能していないことは、法治国家的に疑念のある状況であることが示された。そうした中で、他国がどのように対応していくかは、今後の国際社会における大きな課題であり、その際、各国の法執行状況を冷静に分析していくことが必要である。
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