研究課題/領域番号 |
16K17013
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
石田 倫識 愛知学院大学, 法学部, 准教授 (20432833)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 黙秘権 / 接見交通権 / 証拠開示 / 弁護人立会い / 被疑者取調べ / イギリス刑事手続 / 弁護権 / 自白の証拠能力 |
研究実績の概要 |
被疑者は、取調べにおいて、供述するにせよ、黙秘するにせよ、その前提として、それぞれの場合における法律上の利害得失について充分に認識した上でなければ、(供述に関する)主体的な意思決定を行うことは困難である。このような問題意識の下、イギリス法においては、取調べに先立ち、被疑者には〔1〕警察からの一定の情報(証拠)開示と〔2〕弁護人による法的助言を受ける権利が保障されている(但し、上記〔1〕は必ずしも法律上の制度ではない)。その上で、〔3〕取調べに弁護人を立ち会わせる権利も保障されている。被疑者取調べが上記〔1〕~〔3〕の手順で行われることは、すでに「確立した実務慣行」とされている。 本年度は、このような「確立した実務慣行」の実際を調査するために、イギリス・バーミンガム市に拠点を置く刑事弁護専門の法律事務所の協力の下、7名の弁護士に対するアンケート調査を実施するとともに、1週間にわたって弁護人(ソリシタ)に同行し、実際に上記〔1〕~〔3〕の手続を視察する機会を得た。 視察の結果得られた所感として、以下2点を挙げることができる。第一に、今日、警察が事前の情報(証拠)開示を比較的広範囲にわたり、かつ、積極的に行っていることを確認しえたが、その背景には迅速かつ効率的な事件処理の観点が伏在している可能性があること(警察による弁護人への情報(証拠)開示が一種の供述取引として機能している可能性があること)である。 第二に、イギリスにおいては、取調べにおける被疑者の黙秘も証拠化されうること(及び一定の出頭滞留義務が課されていること)から、被疑者取調べが法的にもクリティカルな手続となっており、そのこととの関係で、取調べに先立つ手厚い手続保障が要請されている可能性があることである(以上は「所感」に過ぎず、本格的評価を行うには、さらなる実態調査の継続と文献調査に基づく補充的考察とが必要になる)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、〔1〕昨年度までの文献調査に基づく研究成果を纏めるとともに、〔2〕イギリスにおける実態調査(バリスタ・ソリシタに対するアンケート調査等)に加えて、〔3〕現地の研究者との意見交換を予定していた。 このうち〔1〕及び〔2〕については、予定通り実施することができた。〔2〕を踏まえた研究成果については、〔3〕を実施の上で今後の発表を予定している。なお、本年度に実施した実態調査の成果の一部として、大阪弁護士会において、「イギリスにおける捜査弁護――弁護人の立会いを中心に」と題する研究報告を行った。また、2018年度・第96回日本刑法学会のワークショップ「被疑者国選弁護制度の拡充と被疑者弁護の課題」において、イギリスの法制度と実務運用に関する話題提供を行う予定である。 〔3〕については、イギリスでの滞在期間に制約が生じたため、本年度は実施することができなかったが、意見交換の実施を予定している研究者による論稿については、広く収集した上で、論点・質問事項の整理等を概ね終えることができた。 以上のことから、「概ね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、関連資料の収集と文献調査を継続的に実施するとともに、来年度においても、イギリスにおける捜査弁護の実態(とりわけ取調べ対応に関する法的助言の在り方と弁護人立会いの意義・目的)を把握するために、ソリシタに対するアンケート調査やインタビュー調査を実施する(なお、可能な限りで、ソリシタに同行し、警察署における情報(証拠)開示、秘密接見、被疑者取調べの視察も継続的に実施する)。 また、来年度は、本研究課題の領域において先駆的な研究成果を公表しているイギリスの研究者との意見交換を可能な限り広く実施する。 加えて、近年の一連のEU指令がイギリス及びEU諸国の法制度とその運用の実際にどのようなインパクトを与えているのか(与えていないのか)等についても、文献調査及び実態調査を実施する予定である。
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備考 |
その他の研究会等での報告として、石田倫識「イギリスにおける取調べ前の警察による証拠開示」(第5回比較刑訴法研究会・東北大学)、石田倫識「イギリスにおける捜査弁護――弁護人の立会いを中心に」(大阪弁護士会)がある。
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