本研究は、LEX/DBインターネットに掲載された裁判員裁判における殺人罪(未遂罪等を含む。)を分析の対象にして、前研究で取り組んだ新たな量刑の数量化モデル(統計的機械学習を用いた量刑予測モデル)を用いて、その量刑判断に関する各基準、(1)死刑と無期刑の判断基準[分析①]、(2)無期刑と有期刑の判断基準[分析②]、(3)有期刑を3 年超とするか否か(執行猶予の可能性を視野に入れるか否か)の判断基準[分析③]、(4)刑期の判断基準[分析④]、(5)実刑・執行猶予の判断基準[分析⑤]について明らかにすることを目的に行った。 研究期間中に、数量化理論第Ⅰ類と変数増減法を用いて、殺人罪の刑期判断予測モデルを立てた。これは、影響力のある量刑因子を特定するとともに、標準化残差の範囲から外れた事例分析を行って、なぜ範囲から外れたのか(実績値と予測値の大きな乖離が生じたのか)を検証し、欠落していた量刑因子やカテゴリーを抽出するために行ったものである。これによって、学習アルゴリズムの構築を図り、現在、その実験を行うに至っている。なお、3年間の研究期間では、分析④を中心に行ったが、それは、これが学習アルゴリズムの構築に向けた中心に位置づけられるものであったからである。他の分析結果についても、今後、順次公表していく予定である。、 また、本研究から派生的に、判例批評も行った。この批評を通じて、裁判員裁判の量刑判断モデルでは、対象事件が属する社会的類型(刑事学的類型)を「軽微」、「中程度」、「重大」などに分類し、それらの量刑傾向の大枠を過去の宣告刑の分布から設定することになるので、大枠が狭まる上に、大枠から軽い方向で踏み出す場合にもしきい値が厳格に反応し、一般情状に関する因子の重みがあまり影響しないという問題性があることを指摘した。本論文により、次の研究課題の気づきにつながった。
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