本研究では、契約条項を規制する諸制度の異同を明確にするために、フランス法における「書かれざるものとみなす」というサンクションと、契約条項の援用の制限を検討し、一部無効との関係を明らかにすることを試みた。 まず、「書かれざるものとみなす」というサンクションについては、一方で、契約条項の無効との違いが明確ではない場面があった。他方で、契約条項の「無効」では当該条項の修正も認められることがあるのに対して「書かれざるものとみなす」ときには当該条項それ自体の効力が否定される点や、ある条項を規制する明文の規定がなくとも契約内容の本質的部分との整合性という観点から契約条項の効力が否定されうる点等、一部無効と異なる点がみられる場面もあった。これらの違いが生ずる理由として、当該条項に合意しているとはいえないために「書かれざるものとみなされる」と指摘されていた。 次に、契約条項の援用の制限について、学説のなかには、内容それ自体には不当性を見出せない契約条項につき、それを実際に援用することが当該条項の目的に反する場合の規制手段として、これを指摘する見解があった。なお、契約の履行過程における事情を契約条項の効力を判断する考慮要素とする学説もあるが、そのために引用される判例の評価等が妥当でないように思われた。また、当該条項の効力を無効とすると、契約関係が解消されていない場面や契約終了後に効果が生じる条項について、不都合が生ずることがあり、無効の問題とすべきではないであろう。 このように、フランス法における契約条項の規制は、「書かれざるものとみなす」というサンクションに関して公序と契約秩序との違いに不明確な部分が残されているように思われるが、各制度の効果や特徴の違いを踏まえて運用されるべきことが説得力をもって指摘されていたと考えられる。
|