本研究は、フランスにおける「資産」概念をめぐる議論を参照することで、日本法の下での「共同担保」概念の位置づけを探ろうとするものであるところ、平成30年度においては、平成29年度まで行ってきたフランス法についての検討から得られた知見を、日本法の分析に反映させる作業を行った。 具体的には、まずは、フランス法上の「資産」概念と日本法上の「共同担保」概念との間の関係性を検討し、フランス法上の「資産」概念について妥当する内容が、形を変えて、日本法上の「共同担保」概念についても妥当しうることを明らかにした。 この結果、第1に、「共同担保」概念が「法主体」概念と結びついたものであることが明らかとなった。すなわち、債務者が債務を履行しない場合、債権者は、債務者の財産によって構成される「共同担保」に基づいて強制的に債権を実現することができるところ、この手段の実効性は、債務者が「法主体」としてどのような財産を持ちまたどのような債務を負うかに依存する形で、流動的に変化するルールとなっていることがわかった。 また、第2に、このルールが原則として妥当するものとなっており、民法上の様々な制度において当然の前提とされていることが明らかとなった。このため、このルールは民法上の原則の1つとして位置づけられることとなる。 そして、第3に、このルールが妥当しない日本法上の様々な局面が、このルールとの関係でどのように位置づけられるのかも明らかとなった。特に、このルールに対する例外として位置づけられる制度については、上記のようにこのルールが民法上の原則となっていることを踏まえた、種々の調整が必要であり、さもなくば制度が期待された機能を果たすことが困難となることがわかった。 これらは、従来は必ずしも意識されてこなかったものであり、この点を明確な形で定式化した点に、本研究の成果が認められるものと考えられる。
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