会社役員の対第三者責任規定(会社法429条1項)は、裁判において援用されることが非常に多い極めて重要な規定であるが、その趣旨や内容は必ずしも理論的に明らかでない。同規定の適用範囲を広く捉える判例法理は、その理論的正当性・整合性が疑わしいまま、第三者保護という理念の下、政策的に是認されてきたものである。しかし、内部統制システム構築義務違反などに基づき対第三者責任が広範に成立しうるようになり、また、取締役(会)の役割も変容しつつある今日においては、判例法理の政策的妥当性についても再検討の余地がある。 本研究は、会社法における第三者保護のあり方に関して、会社役員等の対第三者責任制度を中心に、解釈論・立法論の観点から再検討するものである。 会社役員の対第三者責任規定(会社法429条1項)は、悪意または重過失を要件としており、重過失概念の理解が重要となる。本年度は、(他の領域に関するものではあるが)同概念の意義が問題となった近時の裁判例を検討した。当該検討を通じて、同概念の意義・役割についての再検討が必要であるとの認識に至った。対第三者責任規定およびその関連規定における、重過失概念の内容については、次年度以降、具体的に検討したい。 また、本年度は、アメリカ・ドイツにおける第三者保護制度の概要を調査した。その結果、アメリカ法に関しては、会社補償制度、ドイツ法に関しては不法行為法の分析が重要であるとの認識に至った。それらの詳細な調査・分析は、次年度以降進めていくことを予定している。
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