本研究の最終年度である本年は、研究成果を論文にまとめるとともに、日本私法学会拡大ワークショップにおいて研究成果に関する報告を行った。本年度の研究実績の概要は、以下の4点にまとめることができる。 (1)平成30年度の会社法関係の重要判例を分析する機会を得たことから、当該分析の一環として取締役の対第三者責任に関する判例の分析を行った。裁判例においては重過失概念の意義が不明確であること、重過失の認定が緩やかに行われることも少なくないこと等、本研究を進めるにあたって有意義な情報を得ることができた。当該分析の成果は2019年8月に公表済みである。 (2)前年度に引き続き、取締役の対第三者責任について他の研究者および実務家(弁護士)とディスカッションを行い、既存の判例法理についての問題意識およびあるべき法制度についての考え方を深めた。当該研究成果は論文の形にまとめ、2019年7月に公表するとともに、2019年10月に日本私法学会の拡大ワークショップにおいて研究成果に関する報告を行った。 (3)前年度に引き続き、会社補償およびD&O保険に関する会社法改正の議論をフォローし、対第三者責任への影響について考察した。当該研究成果は、2020年7月に論文として公表する予定である。 (4)前年度に引き続き、取締役の対第三者責任制度と関連する法制度として、信託法における役員の連帯責任制度(信託法41条)について考察を行い、論文を執筆した。当該論文の中では、信託法41条を会社法429条1項の特則として理解しうること、および信託法41条の各要件の解釈論においては会社法429条1項の各要件の解釈論を応用することができることを論じた。同論文は2019年12月に公表された。
|